第15回日中文化研究会 「漢文明と日本―日中の違い―」(2007.9.19)

第15回日中文化研究会 「漢文明と日本—日中の違い—」

 


 

  • 報告者  光田 明正 氏(桜美林大学孔子学院院長)
  • 日 時  2007年9月19日(水)18時40分〜20時30分
  • 場 所  80年館 7階 会議室(丸)
  • 司 会  王 敏 (法政大学国際日本学研究所教授)

 

文部省で留学生政策の立案等に従事され、退官後、長崎外国語大学の学長等の要職を歴任され、現在、桜美林大学孔子学院学院長をされている光田明正氏をお招きして、第15回日中文化研究会が開催された。氏は、冒頭に孔子学院(中国文化や中国語の学習ために、中国政府が各国の大学等と提携して設立した学校で、世界に約150校、日本にも8校が設置されている)の概要について説明され、引き続き「漢文明と日本」というテーマで、日中間の相違点について報告された。報告概要は、以下のとおりである。

1.自然とのかかわり<広さ・大きさの違い> 中国は広大な面積の国土に、言語や文化を異にする多くの民族が居住している。56民族がある。総人口約13億。そのうち約94パーセントが、漢族(日本では「漢民族」といわれる)である。漢語を使用していることから「漢人」であると言えるし、漢人は漢語を使っているとも言える。しかし、漢語は、おおまかに北方語、呉語、福建語、広東語、客家語に分類できる。福建省の南部の言葉、?南語と北方語の距離は英語とドイツ語の距離より大きいとされる。また漢族以外の少数民族は、それぞれの言語を有している。

<治水の歴史←・→花見の伝統> 約五千年前に、大河の治水を始めとする自然を治める技術をもった政権が中原に出現した。その後。秦の始皇帝、漢の高祖、武帝の活躍により、一つの大きな政治圏が次第にできあがっていった。中国では自然は大変シビアであり、自然を統治することで巨大な権力をもつ政権ができあがった。政権担当者は強力である。日本では自然はゆるやかで美しい。花見を楽しむ。人々の気性は激しくはない。政権担当者も同様である。自然の違いは、日中間の人々の気性に大きな相違点を生んでいる。

2.タイムスパンの違い<5千年の歴史、史記の伝統 「10年一昔」の感覚> 日本の歴史は、神話の時代を含め、2,600年余りだが、中国には5千年の歴史がある。日中のタイムスパンの違いは大きい。中国では日常的に、千年前のことが話題になる。歴史を重視する姿勢が際立っている。漢族は5グループの異なった母語を持つ人類集団であるが、タイムスパンに対する感覚の共通性と歴史を重視する姿勢を共有する。日本では、10年一昔という言葉に象徴されるように、歴史をそれほど重視しない。

3.中華の多様性と統一性 日本は、多元的文明摂取と単一性を特徴としているが、中国では、広大な国土に、言語や文化を異にする集団が存在している。歴史的には同じ文化と言語を共有する者同士間でのみ通婚圏が成立していた。つい最近まで北の人と南の人が結婚することは珍しかった。主食は北方は小麦、南方は米。ただ「茶」と言うと北京では、緑茶、花茶が出、福建の厦門ではウーロン茶が出る。食文化や生活習慣は、地域によって大きな相違があり、一言に中国人が云々ということはできない。

4.人間関係の違い<家族重視の中国 集団重視の日本> 中国では、親族関係内の呼び方が細かく定められている。祖父、祖母、甥や姪、従兄弟の呼び方が、父方と母方では異なる。家族内部の秩序がきちんと定められている。中国では、家族で食卓を囲むことを大切にしている。日本では、本来機能集団である職場が共同体のようになり、職場の人間関係が重視されているが、中国では、そのようなことはない。

5.日本は儒教文化圏か<論語は広く読まれてきた 解釈の違い 実践の違い> 中国では、漢の武帝の時代に儒教が国学となり、四書五経が広く学ばれるようになった。四書五経の中でも、論語が説く忠孝、とりわけ「考」が重視されてきた。日本でも論語や孟子が広く読まれてきたので、儒教は日中間で共有する文化と言ってよい。しかし、日中間では解釈と実践が大きく異なっている。

6.人々と国家の関係の違い 日本語の「くに」国は、国家、民族、政府、故郷の全てを意味する。日本では、「国」と「故郷」が同じような感性でとらえられる。「国」への忠誠は自然の感情とも言え、長らく国への忠誠が重視されてきた。中国では、国への忠誠よりも、家族や自分を大事にしてきた。伝統的に王朝政府は税金をとるところで、近寄らないのが得策という考えが強かった。

このような様々な日中の違いを相互理解することこそ、真の友好の第一歩である。

報告を聴いて 中国への関心が、現在及び近い将来の政治や経済に重点が置かれ、諸子百家等伝統的な中国に関するものも多いなか、中国の歴史と社会を形作る基本的な内容について、多くの実例をあげながら解説してくださった光田氏に心から感謝したい。氏が示してくださった内容は、中国を理解する上で、また、日本を理解する上で、幾何学の問題を解く時の補助線のような役割を果たしてくれると思う。

【記事執筆:杉長 敬治(法政大学特任教授)】

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