第4回東アジア文化研究会「台湾における日本研究:日本文化史研究から考える」(2008.7.7)

学術フロンティア・サブプロジェクト2 異文化としての日本

2008年度第4回東アジア文化研究会
「台湾における日本研究〜日本文化史研究から考える〜」

報告者    徐 興慶 氏 (台湾大学日本語学科教授)

日 時   2008年7月7日(月)18時30分〜20時30分
場 所    法政大学市ケ谷キャンパス ボアソナード・タワー25階B会議室
司 会   王 敏 (法政大学国際日本学研究所教授)

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去る2008年7月7日(月)、法政大学ボアソナードタワー25階B会議室(東京・千代田区)において、2008年度第4回東アジア文化研究会が開催された。今回は台湾大学日本語学科教授の徐興慶氏をお招きし、「台湾における日本研究:日本文化史研究から考える」と題して行われた。

徐氏は1956年生まれ。東呉大学東方語文学系を卒業後日本に留学し、1992年に九州大学で文学博士の学位を取得。これまでに中国文化大学日本語学科主任日本研究所所長、台湾日本語文学会副会長などを歴任し、2008年8月1日からは台湾大学日本語学科主任日本語文研究所所長に就任する予定である。近著に『朱舜水思想交流論考』(台湾大学出版中心、2008年)、『近代中日人物與思想交流的新群像』(台湾大学出版中心、2008年)などがある。

今回の報告では、1.台湾における日本研究の変遷、2.日本研究の機構とその内容、3.大学の教育から見た日本文化史研究、4.国際化を巡る台湾の日本研究、の四つの観点から、台湾における日本研究の現状と問題が提起された。各点の要旨は以下の通りである。

1.@ 台湾における日本研究の変遷

台湾における日本研究は、1952-1972年の第一期と、1973-2003年の第二期に分けることができる。

第一期である1952-1972年の日本研究の特色は、政治・外交・経済などの政情分析を中心とし、明治維新、西洋文明の吸収、近代化と改革、帝国主義の本質と対外侵略への批判などが行われた点にある。また、a)系統性と組織性に乏しい、b)日本との学術交流の推進が難しい、c)学術研究よりも対日政策の実行への有効性が優先される、という点にも、この時期の日本研究の特質があった。

第二期である1973-2003年には、研究対象が学術・文化・教育などの分野に拡大した点に日本研究の特色がある。しかし、日本研究の人材を育成するための研究機関、大学間の連携や整合性の確保などが難しいという問題もあった。

一方、1995年に設置された日台交流センターは、双方の歴史研究者の招聘や学術書、論文集の発行などで一定の成果を挙げている。

2. 日本研究の機構とその内容

台湾において日本研究を中心的に進めている大学は台湾大学のほか、中国文化大学、淡江大学,輔仁大学、政治大学である。

このうち、中国文化大学の日本研究の成果は2004年度までに295編の論文としてまとめられており、同じく淡江大学でも2004年度までに288編の論文が執筆されている。なお、中国文化大学の主な研究分野は政治外交、植民地、歴史・思想及び宗教、日本文学などであり、淡江大学では社会、経済、企業管理、教育、思想史などが主たる研究分野である。

台湾大学では、日本語文学系が主催する日本研究講演会を開催しており、1999-2004年度に述べ41回の講演が行われた。また、2002-2005年に行われた「東亜文明研究中心」プログラムでは2003-2004年にかけて日本研究活動の一環として、日本人研究者などによる講演会を21回開催した。

台湾大学における日本研究の特色の一つが日本漢学研究である。文学院及び東亞文明センターを中心として2001年から「日本漢文学研究」という国際シンポジウムが開催されており、2008年3月には台湾大学の文学院と二松学舎大学COEプログラムの共催で第5回目を開催した。毎回規模が拡大しており、今回は日本から参加者約20名を含む、ベトナム、フランス、ベルギー、韓国など各国から研究者が集まった。

3. 大学の教育から見た日本文化史研究

台湾大学、輔仁大学に提出された修士論文やレポートの内容をみると、「古代日本人の死霊館」「両墓制」「天を祭る儀式」といったものから「国民的宗教の成立」「一揆における集団意識」「江戸時代における食生活の変遷」といった話題まで多岐にわたる。

ただし、原典、とりわけ近代以前の文献を読解するという点で学生の能力は必ずしも十分ではなく、そのため学生独自の視点は乏しくなりがちである。

また、現在、台湾では46の大学が日本語学科及び応用日本語学科を設置している。しかし、古典を扱うのは台湾大学のみで、他の大学はほぼ近現代に日本を対象としている。この点も、学生の原典読解能力を涵養する際の障害となっている。

4. 国際化を巡る台湾の日本研究

「何故日本研究を行う必要があるのか」という問いに対しては、a)どうすれば日本と良好な関係ができるか、b)日本民族の閉鎖性及び対外意識を理解する、c)「運命共同体としての日本と台湾」という課題の解決、が求められるからである。

今後の台湾における日本研究の展望としては、a)研究の焦点を絞って水準を上げる、b)人材の育成と短期、中期、長期の研究計画の策定、c)日本研究の奨励制度をつくり、優秀な研究者を育成する、ということが必要となる。

そして、将来的には台湾における日本研究の拠点として「台湾日本総合研究中心」を設立するとともに、日本と文化交流を促進させるよう、積極的に働きかけることが重要になるだろう。

本報告の後に質疑応答が行われたが、その中で「台湾日本総合研究中心設立の現実性」や、「民進党から国民党に政権が変わった現在の台湾では日本研究が冬の時代を向かえるのではないか」といった指摘がなされた。これに対し、徐氏は、台湾日本総合研究中心の設立が決して容易ではないことを認めつつ、それでも日本研究者たちが努力しなければならないし、日本の関係者の協力も不可欠であるとの認識を示した。

この質問への回答からも明らかなように、今回の報告では、「外国における日本研究の促進のためには日本の研究者の努力が不可欠である」という根本的な課題の重要性が改めて確認されたといえるだろう。

【記事執筆:鈴村 裕輔 (法政大学国際日本学研究所客員学術研究員】