【開催報告】法政大学国際日本学研究所主催:「トランスナショナルな日本」研究会 「なぜトランスナショナルな視点が求められるのか-在日コリアンのアイデンティティと朝鮮籍から考える-」(2023年10月28日(土))2023/11/27

法政大学国際日本学研究所主催「トランスナショナルな日本」研究会
なぜトランスナショナルな視点が求められるのか
-在日コリアンのアイデンティティと朝鮮籍から考える-


■開催日時 2023年10月28日(土) 14時〜16時
■会場 法政大学市ヶ谷キャンパス 大内山校舎 4階 Y405教室 【対面式で開催】

■講  演  者:   李 里 花 (中央大学総合政策学部教授)
■コメンテーター:   中沢けい(法政大学文学部教授)
■司   会:        髙 田 圭 (法政大学国際日本学研究所准教授)

国際日本学研究所では、「トランスナショナルな日本のカタチ」を問い直す試みとして、国内外で研究会を開催してきた。今回は、在日コリアン研究をご専門とする李里花氏 (中央大学総合政策学部教授)をお招きし、「朝鮮籍」の問題から日本のトランスナショナリズムについて考察していくことを試みた。

李氏は本報告で、最初に移民研究におけるトランスナショナリズム論の概念整理をおこなった後、2021年に刊行された編著『朝鮮籍とは何か−トランスナショナルの視点から』(明石出版)をもとに「朝鮮籍」の歴史的経緯とその問題点について概説された。1910年以降、日本帝国臣民に組み込まれた朝鮮の人々の中には、日本に移住した者も少なくなかった。敗戦時におよそ200万人いた朝鮮出身者のうち約140万人ほどは朝鮮半島に帰還した。日本に留まった人々は、日本国籍を有しながら1947年に外国人登録令で外国人登録することになるが、国籍と出身地を示す欄に記載されたのは「朝鮮」であり、これは国籍を意味するものではなかった(朝鮮に二つの国家が成立するのは1948年となる)。その後サンフランシスコ講和条約(1952年)が成立する年に日本国籍が剥奪されると在日コリアンはどの国家にも帰属しない「朝鮮籍」という「籍」をもった「外国人」になった。そして1965年の日韓条約をきっかけに、韓国国籍者に協定永住資格の申請が可能になると、韓国国籍に切り替える人の数は増加した。それでも、外国人登録を「朝鮮」のままに留めた人々もいた。そうした人々がいわゆる「朝鮮籍」と呼ばれる人々である。2022年12月の時点で25,358人にのぼる「朝鮮籍」の人々は、正式にはどこの国家にも属さないため(言うならば事実上の「無国籍」)、日本の出入国、韓国への入国を含めて国際移動に様々な制限が課されているという。

「朝鮮籍」のままとする人々の動機は、多様であり一元化することはできないものの、報告において李氏は、トランスナショナルな側面に注目して分析された。それは、「朝鮮籍」の人々の中には、「北でも南でもないけれど、北でも南でもある」と同時に「日本でもある」といった「自分の帰属が国家横断的な人や社会の次元にあるという意識」即ちトランスナショナル・アイデンティティと呼べる国家を超えた帰属意識を持つ人々の存在があるからだという。これまでの研究では、長らく在日コリアンのアイデンティティを「韓国人・朝鮮人」と「日本人」の狭間にあるとする見方が支配的であった。李氏は、ここに、国民国家を所与とする「方法論的ナショナリズム」だけでなく、「方法論的エスニシズム」が見え隠れすると主張された。それは、「日本人」や「朝鮮人」といった単一のエスニシティの枠組みに人々をはめ込もうとする意識であり、同時にそこから溢れ落ちる人々を疎外するような視座でもある。「北でも南でもないけれど、北でも南でもあり」そして「日本でもある」「朝鮮籍」の人々の存在は、こうした「方法論的なエスニシズム」を超え、また、それを突き崩すトランスナショナルな方法の重要性を指し示していると言う。前回の「トランスナショナルな日本」研究会において、人類学者の桑山敬己氏から「ネイションの訳語は、『国民』だけでなく『民族』もあるが、その意味でトランスナショナルを考える場合に『民族を超える』といったことがどのような意味になるのか」という問いかけがあった。はからずも、李氏の報告は、桑山氏への質問への有意義な回答になっていたようにも感じられた。また、研究会の限られた時間内で十分に議論することは叶わなかったが、「朝鮮籍」の問題は、「トランスナショナルな日本のカタチ」を考えるうえでも極めて重要な事例であることに改めて気付かされた。そして、そうした視点から見ていく場合、他の「無国籍」の事例、例えば、ハンナ・アーレントなどナチス・ドイツに国籍を剥奪されたユダヤ人の経験などと比べてみることも大切であろう。

学際性と現代性という側面から、今回はコメンテーターとして、作家であり、また長らくヘイトスピーチの問題に積極的に関わって来られた中沢けい氏(法政大学文学部教授)をお招きした。李氏は、報告の最後で、路上でのヘイトスピーチの映像を見せながら、コリアン女性に対するセクシズムの問題を指摘したが、その際に中沢氏からは、ヘイトスピーチのこれまでの展開と現状に関する様々な見解が示された。更に、今年(2023年)が日本でも大ヒットした韓国ドラマ『冬のソナタ』の放映から20年目にあたるとし、ドラマの放映をきっかけに日韓の相互理解が急速に進んだことが強調された。人々の国境を越えた移動は加速しており、そうした中で人権に関わる様々な問題が生じる一方で、トランスナショナルな実践にとっては、「文化の力」が極めて重要になるという力強いメッセージを発せられた。

 

【会場の様子】

髙田 圭(法政大学国際日本学研究所・准教授)

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