【開催報告】国際日本学研究所 2021年度国際新世代ワークショップ(第4回アルザス・ワークショップ)(2021年10月29日・30日・31日)2022/01/12

The 4rd EU-Japan Young Scholars Workshop / 2021 International New Generation Workshop
2021年度国際新世代ワークショップ(第4回アルザス・ワークショップ)

 

■会期・開催時間:2021年10月29日(金)~10月31日(日)(3日間)
・2021年10月29日(金)18時00分~00時15分(*日本時間JST)
・2021年10月30日(土)18時00分~23時45分(*日本時間JST)
・2021年10月31日(日)19時00分~00時00分(*日本時間JST)

■主催: 法政大学国際日本学研究所(HIJAS) ・「国際日本研究」コンソーシアム(CGJS) ・アルザス欧州日本学研究所(CEEJA)

■オーガナイザー/コメンテーター(アルファベット順):
安孫子信(法政大学)、黒田昭信(ストラスブール大学/フランス)、ジョゼフ・キブルツ(CNRS-CRCAO /フランス)、レギーネ・マチアス(CEEJA /フランス)、髙橋希実(ストラスブール大学/フランス)、髙田圭(法政大学)、小口雅史(法政大学)、エーリヒ・パウエル(CEEJA / フランス)、サンドラ・シャール(ストラスブール大学/フランス)、鈴村裕輔(名城大学)、坪井秀人(国際日本文化研究センター)

■あらまし: 法政大学国際日本学研究所(HIJAS)・「国際日本研究」コンソーシアム(CGJS)・アルザス欧州日本学研究所(CEEJA)の主催で、「日本研究とトランスナショナリズム」をテーマとするワークショップを、2021年10月29日(金)から2021年10月31日(日)までハイフレックス(対面+オンライン)で開催しました。

■内容:
法政大学・国際日本学研究所は、2005年以来ヨーロッパ日本研究所(CEEJA)との共同ワークショップをほぼ毎年開催してきた。近年は、「国際日本研究」コンソーシアムとの連携も加わり、若手の研究報告を主体とするワークショップへと発展している。今年度、第4回目を迎えたアルザス・日欧ワークショップは、「日本研究とトランスナショナリズム」というテーマのもと、対面とオンラインというハイフレックスの形態で、フランス・コルマールのCEEJAをベースに開催された。1日目は「トランスナショナルな文化」、2日目は「日本と西洋/東洋のつながり」、そして3日目に「トランスナショナリズムと境界」という小テーマを設定し、3日間にわたり合計12名による報告がなされた。基調講演者として、酒井直樹氏(コーネル大学)、クラウディア・デーリヒ氏(フンボルト大学)、サンドラ・シャール氏(ストラスブール大学)の3名を米独仏から迎え、また公募で集まった9名の報告者は、ドイツ、イギリス、フランス、スイス、イタリア、そして日本の研究機関に所属するキャリアの若い(early career)研究者たちであった。これら報告者に加えて、CEEJA、ストラスブール大学、東アジア文明研究センター、国際日本文化研究センター、名城大学、法政大学からのコメンテーターが集い、白熱した議論が展開された。

「日本研究とトランスナショナリズム」というテーマには大きく二つの狙いがあった。一つは、地域研究という領域とトランスナショナリズムとの関係を探るメタな議論があり、もう一つは、個別具体的な日本のトランスナショナリズムの実証的な研究の報告である。国境を越えた現象から世界を捉えなおす試みは、「グローバル・ターン(global turn)」という言葉も生まれ、21世紀に入って、特に2010年代から盛んに議論されてきた。それは、この新たな視点に基づいた多くの実証研究を生んだだけでなく、より広く既存の知の枠組みを突き崩し、われわれの認識論的な転換を迫るアプローチであるとも見做されてきた。社会学の領域では、例えば「方法論的ナショナリズム(methodological nationalism)」という言葉で、それまでの社会学的な知が、器としての国民国家を基に組み立てられてきたという批判が展開され、国を超える視座で社会を捉える必要性が訴えられた。では、この「グローバル・ターン」が日本研究を含めたエリア・スタディーズにどのようなインパクトをもたらすのだろうか。国民国家それ自体の特徴とそこに住む人々を研究対象とするエリア・スタディーズにとってこうした知の転換は、ある意味では社会学や文学といったディシプリンよりも一層クリティカルなものであり、地域研究という領域のアイデンティティを根底から揺るがすものとなるようにも見える。果たしてトランスナショナリズムのアプローチは、どのように日本研究を転換させうるのか、本ワークショップを通じてともに理解を深めていきたいと考えた。

そこで、こうした問題について有益な知見を提供してくれるだろう第一線の研究者に基調講演を依頼した。以前から本ワークショップにご協力いただいているストラスブール大学のサンドラ・シャール氏には、ワークショップのテーマとは別に、2020年に刊行された著書『「女工哀史」を再考する: 失われた女性の声を求めて』の出版を記念した報告を依頼した。本報告では、これまでの「女工哀史」イメージを覆す、主体性を持った女性たちの生き生きとした物語が示された。他方、酒井直樹氏とクラウディア・デーリヒ氏は近年それぞれ米国とドイツでトランスナショナリズムとエリア・スタディーズの問題について論じている研究者だ。特に酒井氏は、トランスナショナリズムがエリア・スタディーズを根底から突き崩すような革新性があることを主張する重要な論考を発表してきた。本ワークショップにおいても、この延長線上の議論として「インターナショナリティとトランスナショナリティ-翻訳とエリア・スタディーズ(Internationality and Transantionality: Translation and Area Studies)」と題した公演がなされた。これまでの米国で発展したエリア・スタディーズは、領土と境界が明確な国民国家を前提とした、またパクス・アメリカーナをベースとする世界秩序と親和性の高い「インターナショナリティ」に基づいたものであった。それに対して、国民国家の領土化を無効化するような「トランスナショナリティ」の視点からエリア・スタディーズを再考していくことの必要性を訴える刺激的な報告であった。クラウディア・デーリヒ氏は、こうした認識論的な議論とはまた異なる方法論的な問題としてトランスナショナルな視座の有用性を説いた。ローカル間の相互行為、国境を超えたネットワーク、またリージョンを超えたつながりなど異なるレベルで「トランス」概念を捉えること、また「アジア」という概念からアジアの各地域を捉えなおすこと、西洋が非西洋に向けた眼差しを逆に西洋に当てはめる試みなど様々な越境的なアプローチが紹介され、こうした方法で日本やアジアを捉えることの革新性と西洋中心主義を乗り越える可能性が示された。ヨーロッパからの非西洋的な知に対する新たな眼差しと評価が垣間見れる講演であった。

こうしたように本ワークショップでは、3本もの有意義な基調講演がなされ、参加者は最先端のトランスナショナリズムの概念、また方法論に触れた。しかし他方で、今回のテーマ設定の背後には、トランスナショナリズムと日本研究に関わるもう一つの問題意識があった。それは、国境を超えながらも残る、「国」のようなものをいったいどのように捉えれば良いのか。はたまた、グローバル化の時代でも現存する国家というものをトランスナショナリズムの方法論はどのように考えるべきかというものである。(過去も現在も)世界には国民国家を超える現象が溢れており、また国民国家の相対的な影響力の低下が指摘されて久しい。それでも、国民国家がボーダーを管理するアクターとしてトランスナショナリズムのあり方に強い影響を与え、また制度としての国家だけでなく、国民のあり方もその国、地域のトランスナショナリズムのかたちを規定しているようにも見える。トランスナショナリズムをある国からある国への移動とその受け入れの問題であるとすると、やはり移動の現象だけを追うのではなく、移動を促進または制限するナショナル(またはローカルな)な磁場のようなものを含めて理解する必要があるのではないだろうか。要するに、国境を越える現象に着目する意義と近代国民国家の概念的な乗り越えを認めた上で、それでも残る国というもの、そしてそれぞれの国の特徴によって影響を受ける各国のトランスナショナリズムのあり方を探っていくことである。

こうした密かな問いに関しては、本ワークショップの二つ目の狙いである、トランスナショナリズムの実証研究が多くの示唆を与えてくれた。公募で参加した9名による報告はすべて、国または民族を超える現象を、「日本」を軸に、様々な角度から明らかにする興味深い発表ばかりであった。分野としては歴史学、文化研究、思想史が主だったが、それらが扱ったテーマは大きく以下のようにまとめられる。
① 世界文明のなかの日本の地政学的な位置(Maria Carlotta Avanzi, Chiara Rita Napolitano)
② 西洋と東洋のあいだのメディエーターという日本の役割(Yijie Chen , David Malitz)
③ 日本人のトランスナショナルな実践と国境管理(Takahiro Yamamoto, Danila Kashkin, Pia Maria Jolliffe)
④ 「他者」との出会いと日本の民族観やアイデンティティ(Aki Yoshida, Michiyo Koga)
トランスナショナルなアプローチと一言で言っても、着目する時代、対象、そして視覚によって様々な研究があり得るということを再確認すると同時に、これらの報告からは、日本のトランスナショナリズムの特徴というものもおぼろげに浮かび上がってきた。そこには、日本の地政学的な位置、国境を超えることの高いハードルや日本の国境管理のあり方、また国境を越えることで立ち上がってくる日本的なアイデンティティなどトランスナショナルという視点を持つことで逆説的に見えてくる日本の姿があった。

こうして、三日間にわたり、理論、方法、実証のレベルにおいて日本研究とトランスナショナリズムの問題について議論してきた。その中で、当初の狙いを超えて、本ワークショップの意義を再確認するような興味深く、重要な論点も提示された。これまでのワークショップでは、欧州と日本からの研究者の交流が主であったが、今回は、主催者の一人である坪井秀人氏の招聘によって米国から酒井直樹氏の参加が実った。日欧米の、また世代の異なる日本研究者が、三日間にわたって一堂に会することで、異なる日本や世界に対する眼差し、また日本研究/地域研究の文化的な差異も浮き彫りになった。元来、欧州の日本研究と北米の日本研究は(もちろん、日本の日本研究も)、異なる知的伝統の中で育まれてきた。ただし、地域研究を含めた人文社会科学のグローバルなフィールドが立ち上がってくることで、そうした各々のアカデミック文化も、問い直され、変容を迫られてきている。今回のワークショップでは、真正面からトランスナショナリズムについて論じた。また参加者についても、実際に国境を越えた移動、オンラインでのスクリーンを通じた参加と多様なトランスナショナリズムが実践されたことで、最終日の全体統括を含めて時に緊張感を伴う刺激的な議論へと発展した。日本研究も今後ますますグローバルなフィールドでの交流が進んでいくことは避けられない。世界各地の研究者が、アルザスという境界(boundary)に翻弄された歴史を有する場所に数日にわたって集う本ワークショップは、今後も日本を巡るトランスナショナルな対話の実験場として、知的貢献を続けていくことが期待される。

なお、これらの報告の中で特にテーマと沿った論考に関しては、HIJAS発行のジャーナル『国際日本学』第19号に掲載予定である。

■ワークショップの趣旨:
近年、人文社会科学においてトランスナショナルな視座は、世界をとらえる重要なアプローチとなっている。そうしたグローバルあるいはトランスナショナル的転回は、日本研究にも大きな影響を与えている。ただし、トランスナショナリズムと日本研究をふくめた地域研究とのあいだには、いささか入り組んだ関係がある。それは一方で、近年の加速化するトランスナショナルな動きは、国民国家をベースとしたエリア・スタディーズの問い直し、あるいは無効化をうったえる議論をも生み出している。しかしながら、他方では、国民国家がトランスナショナルなフローや実践を促進、また制御する重要な制度としていまだに機能し続けていることも見逃してはならないだろう。こうした認識を前提に、本ワークショップでは、実証的、理論的に日本(研究)とトランスナショナリズムの関係について論じる報告を広く募集する。とりわけ、人文・社会科学を問わず、越境のプロセス、そこで展開される相互行為、そしてその帰結についてあつかった、過去、現在の日本のトランスナショナリズムに関する事例報告を待ち望む。また同時に、先に述べたような日本研究・エリアスタディーズとトランスナショナリズムの複雑な関係を論じる報告も期待したい。

■各報告の要約
*英文タイトルは、英語での報告、日本語のタイトルは日本語による報告。

◆第一日 2021年10月29日(金)  司会:坪井秀人(国際日本文化研究センター)
[基調講演①]サンドラ・シャール(ストラスブール大学/フランス)
“Discovering Women’s Voices: The Lives of Modern Japanese Silk Mill Workers in Their Own Words”
2020年に出版された単著の内容をもとに「女工哀史」の新たな解釈が報告された。貧しい少女たちの強制的な労働、また搾取として描かれることの多かった「女工哀史」だが、インタビュー調査などによって導き出されたのは、そう単純ではない個々人の、また時代によってはポジティブとも捉えられるような物語であった。本報告で強調されたのは、女性たちの主体性である。女性たちにとって工場で働くことは、強制というよりはむしろ置かれた家庭環境の中で見つけ出した最大限の選択であったという。工場の環境は、もちろん素晴らしいものではなかったが、貧しい家庭に育った女性労働者たちにとってそこは新たな機会へと自身を開く場として捉えられた。それは、また経済的利益を得るだけの場所ではなく、地元では享受することのできない楽しみや救いまでももたらすものだった。

[発表①] 陳藝婕(総合研究大学院大学[日本])
「高島北海『写山要訣』の中国受容」
明治時代から大正時代にかけて活躍した画家で自然科学者の高島北海(1850-1931)が1903(明治36)年に刊行した画論『写山要訣』について、1957年に出版された傅抱石(1904-1965)による中国訳を通して高島の写生理論が中国でどのように受容されたかが検討された。その結果、毛沢東が『文芸講話』(1942年)の中で強調した「社会主義リアリズム」の観点から、中国では『写山要訣』は中国の山水画において岩石などの立体感や量感を表現するための技法である皴法に科学的な根拠があることを証明する画論であるとして受け入れられたことが示された。

[発表②]吉田安岐(フランス国立東洋言語文化研究院[フランス])
「文学におけるトランスナショナリズムとその受容-在コリアン文学を一例として-」
1970年代に在日朝鮮人文学が行ったナショナルな文学(国文学)の枠組みを超えようとする実践、国文学の枠組み超えた文学の場を目指し指した実践、ナショナルな文学の価値を超えようとする実践を「文学におけるトランスナショナリズム」と捉え、在日朝鮮人文学のトランスナショナリズムが日本の文壇でどう受け止められたかを、1970年代前後の芥川賞の候補作品と評価を対象に検討した。その結果、トランスナショナルな評価基準を設定することが難しく、作品を通してトランスナショナリティを表現することが文学のナショナルな側面を意識させることに繋がるとともに、トランスナショナルな文学活動の広がりの中で各文学間の対話を進めることの意義が指摘された。

[基調講演②]酒井直樹(コーネル大学 [米国])
“Internationality and Transnationality: Translation and Area Studies”
本報告で、酒井直樹氏は戦後米国で発展したエリア・スタディーズという知の生産様式の問題性を「インターナショナリティ」と「トランスナショナリティ」という概念の対比から論じた。両者はともに境界(border)の問題が扱うが、そのアプローチは異なるという。「インターナショナリティ」は明確な境界を想定しており、したがって領土化された空間を前提とする。それに対して「トランスナショナリティ」は、空間の領土化を無効化する方向へと向かう。それは、むしろ境界を地平線(horizon)のように、世界がつながっていながらも、視覚的に見えなくなるような変わり目として捉える。エリア・スタディーズは、パクス・アメリカーナのもと、領土化された世界を、鳥の目(birds-eye)のように上からまなざす「インターナショナリティ」の世界観に基づいた知の生産様式として発展した。酒井は、「インターナショナリティ」から「トランスナショナリティ」への世界観の転換を訴え、それに伴い、これまでのエリア・スタディーズをも脱構築していく必要性を論じた。

◆第二日 2021年10月30日(土)  司会:髙田圭(法政大学)
[発表③]アヴァンツイ・マリア・カルロッタ(秋田県立大学[日本])
“Religions Beyond Borders – Buddhism and its Impact on Ancient Japanese Art”
日本への仏教の伝来と7世紀の仏教美術のあり方を法隆寺と中国・洛陽の中央陽陽洞窟の仏像の比較を通して検討し、当時の日本においては朝廷の政治的な支配力を強化する手段として仏像が用いられたことが示された。また、日本の仏像が百済や新羅の仏師の影響によって発達するとともに朝鮮半島に還流することで新たな様式の仏像が誕生するという国境を超えた交流が行われたこと、さらに日本の仏像の芸術的な独自性が中国や朝鮮の仏像との対比によって明らかにされた。

[発表④]ピア・マリア・ジョリフ(オックスフォード大学[イギリス])
“Transnational Relations and Young People’s Intellectual Lives: The Tenshō Embassy 1582-1590”
「日本におけるイエズス会の宣教をさらに促進させ、日本と日本人を知らしめることでヨーロッパ側の関心を高める」という目的によりアレッサンドロ・ヴァリニャーノが組織した天正遣欧使節団(1582-1590)と4人の日本人使節(千々和ミゲル、原マルティノ、伊東マンショ、中浦ジュリアン)の活動とヨーロッパ側の反応を通して、非公式的・非国家的アクターが日欧の知的交流の中でいかなる役割を果たしたかが検討された。その結果、4人は和紙と墨で書かれた手稿や日本語の書物を欧州にもたらし、欧州の書物を日本に持ち帰るなどの交流がなされたことが文献や図像資料を通して確認された。

[発表⑤]ダニラ・カシキン(ジュネーブ大学[スイス])
“They Came from beyond the Sea: Castaways and the Transnational Cultural Exchange between Japan and the West”
海禁策がとられ、外国との交流が制限された江戸時代にあって、「天下の貨七分は浪華にあり、浪華の貨七分は舟中にあり」と称されるほど経済が発展した大阪と江戸とは海上交通によって物資の運搬が行われていたものの、冬季に吹く大西風や黒潮の流れ、天測航法の未発達、用具の不十分さなどの影響により船舶の漂流が頻発していたことを手掛かりに、大黒屋光大夫や中浜万次郎をはじめとする漂流民がロシアや米国とどのように関わりを持ったか、あるいは日本に帰還した後にどのような扱いを受けたかが検討された。

[発表⑥]マリツ・ダーヴィト(ドイツ日本研究所[日本])
“Japan in Southeast Asia/Southeast Asia in Japan: Transnational Perspectives from Thailand and Japan”
日本とタイについて、「東アジア」と「東南アジア」という異なる地域に属する二つの国の関係として捉える従来の観点の代わりに、相互に影響を及ぼし合う関係にあることが指摘された。具体的には、東南アジアからの輸入品が日本の仏教や江戸時代の人々の生活に与えた影響や、18世紀のタイにおける日本の産品の位置付けが検討されるとともに、現在の日本とタイにおいて、それぞれの文物が相手国の日常生活の中にどの程度まで浸透しているかが、日本の食料輸入やタイのトゥクトゥクやロングテールボートなどを通して明らかにされた。

[基調講演③]クラウディア・デーリヒ(フンボルト大学/ドイツ)
“Tracing Transnationalism: Japan in Southeast Asia and the Middle East”
クラウディア・デーリヒ氏は、本報告においてトランスナショナリズムを捉える多様なアプローチについて論じた。ローカル間のつながり、国境を越えたつながり、そしてリージョン内、またリージョンを越えた政治的、社会的、文化的、経済的、認識論的、感情的な関係性を多層的に捉えるアプローチとしての「トランス・リージョナル・スタディーズ」。アジアという視座を用いてアジア社会を捉えなおす試みとしてのKuan-Hsing Chenによる「方法としてのアジア」。また、既存の中国像の転換を提起した溝口雄三の「方法としての中国」。西洋によって非西洋を捉える概念を反転させ、西洋に応用する「眼差しの転換(reversing the gaze)」を主張するElisio Macamoの議論。そして、オルターナティブなトランスナショナル・ネットワークを提唱するMarsden & Mostowlanskyによる議論など、非西洋の研究者による、これまでの西洋中心主義の国民国家をベースとしたエリア・スタディーズを超える様々な手法が紹介され、国境を超える現象を日本を含めたアジアの枠組みから捉える意義が論じられた。

◆第三日 2021年10月31日(日)  司会:安孫子信(法政大学)
[発表⑦]山本敬洋(ハイデルベルク大学[ドイツ])
“Demarcating Japan: A Microhistorical Approach”
19世紀後半における日本の領土の確定について、定説となっている西洋の脅威への日本の対応ではなく多国間の関係から理解することの重要さが指摘されるとともに、どのような人的な活動や交流が各地域の帰属に影響を与えたかが、地方史や郷土史の記述などを活用しつつ、具体的な事例に基づいて検討された。その結果、周囲を海に囲まれているという地理的な条件により、日本が海洋空間を通して他国と交流・交渉することが可能になるという特長を持ち、結果としてトランスナショナリズムの点で他の国や地域に比べて相対的な優越性を備えていることが示された。

[発表⑧]古賀通予(法政大学[日本])
「日本語は普遍を表明できないか」
1950年に留学のためにフランスに渡り、その後パリに定住して日記形式の随筆の中で自らの思想を展開した森有正を対象に、森がフランスに生活の拠点を置き続けたことや既に多くの哲学者や文学者が論じてきた日本人論を改めて行った理由が、各種の著作を通して検討された。その結果、森は「私の問題」から出発し、最終的に日本人の問題を経過した上で「人間」の問題を考えることを目指すとともに、このような試みは森にとって日本以外の場所でしか実現できなかったことが指摘された。

[発表⑨]キアラ・リタ・ナポリターノ(ナポリ大学[イタリア])
“Rewriting Tradition: An Analysis of the Influence of Transnational Cultural Flows on Japanese Traditional Townhouses”
町中にある家や商家など現代の都市型住宅に相当する京町家を対象に、町家と看板住宅の持つ意味やそれぞれの住宅の中に取り入れられた外国の文化の影響が検討された。その結果、伝統的とされる町家には魔除けや厄除けとして中国の説話に基づく鍾馗像が屋根に置かれたり、看板住宅がしばしば擬似洋風建築によって作られるなど、伝統的な要素とその時々の先端的な要素が取り入れられていること、さらに法制度の変化など外的な要因の影響を受けながら現在に至っていることが示された。

 

                            【ハイフレックス会議の様子】

 

                 

【基調講演① サンドラ・シャール氏            【基調講演② 酒井直樹氏
(ストラスブール大学「フランス」)】                (コーネル大学「アメリカ」)】

                 

【基調講演③ クラウディア デーリヒ氏          【発表② 吉田安岐氏
(フンボルト大学「ドイツ」)】           (フランス国立東洋言語文化研究員「フランス」)】

                

【発表③ アヴァンツイ・マリア・カルロッタ氏        【発表⑤ダニラ・カシキン氏
(秋田県立大学「日本」)】                   (ジュネーブ大学[スイス])】

  【記事執筆】髙田 圭(法政大学国際日本学研究所専任所員)
鈴村裕輔(名城大学外国語学部准教授・法政大学国際日本学研究所客員所員)

 

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