【開催報告】国際日本学研究所主催 新しい「国際日本学」を目指して(10)公開研究会 『海外における女性のキモノの表象―「見る」「見られる」「見せる」の歴史人類学―』(2021年5月22日)2021/06/21
法政大学国際日本学研究所主催
新しい「国際日本学」を目指して(10)公開研究会
『海外における女性のキモノの表象―「見る」「見られる」「見せる」の歴史人類学―』
2021年5月22日(土)13時~14時30分 オンライン(ZOOM)にて開催されました。
■報告者
桑山 敬己(法政大学国際日本学研究所客員所員 関西学院大学社会学部教授・北海道大学名誉教授)
■司会
山本 真鳥(法政大学名誉教授・法政大学国際日本学研究所客員所員)
■コメンテーター
髙田 圭 (法政大学国際日本学研究所専任所員)
【報告内容】
桑山氏は現在『日本文化表象の人類学』というタイトルの単著を執筆中であり、今回のご発表はその第4章に相当するものである。女性のキモノをめぐる西洋のまなざしに注目して、日本はどのように西洋によって見られたか、ということを解き明かすのが、本発表の目的である。多くの画像の提供があり、難しい内容を理解する助けとなるように構成されていた。
桜の下でキモノを纏った女性の姿は、日本を表象するイメージとしてしばしば用いられる。1620年頃のポルトガルの文献にキモノが登場するが、彼らのもつ衣服のイメージとはずいぶん異なり、大変開放的でエロチックな衣類として紹介されている。キモノは当時からヨーロッパでは部屋着(ガウン)として用いられ、流行したという。また、19世紀の開国後もその印象は変わらず、その頃浮世絵が西洋美術に及ぼした影響は大きい。1867年の第4回パリ万博では、会場内に日本の茶屋に芸者が並ぶという展示が行われ、さらに、1887年に出版されたロティ著『お菊さん』は、後にオペラ『蝶々夫人』の誕生に結びつく。1900年のパリ万博では川上貞奴が大変な好評を博し、『芸者と武士』という出し物を演じた。このようにして、女性、キモノ、ゲイシャがエキゾシチズム、エロチシズムに結びつき、日本を示す記号として次第に鮮明となる。
ルース・ベネディクトの『菊と刀』の「菊」=女性的イメージはこうして成立するのである。一方、日清・日露戦争を経て、日本のイメージは戦闘的な男性性的なもの(「刀」のイメージ)が勝っていくことになる。これはジャポニスムのような外からの表象ではなく、外を意識して内から英文で描いた岡倉天心や新渡戸稲造らの日本人論と軌を一にするものでもあった。しかし、戦後に再び女性性としての日本のイメージは復活する。こうして、現在欧米で日本を象徴するようなポスターや博物館・美術館のお土産品、製品のパッケージなどでは、日本女性は、エキゾチックでエロチックな存在としてキモノを着たゲイシャとして登場していることを、さまざまな画像を示しながら論じた。
髙田氏のコメントに答えつつ、桑山氏は、最近の現象としては、キモノのコスプレ化が進んでいるのではないか、またアメリカ人の中で日本と中国とのそれぞれのイメージは、一方が上がれば、他方が下がる、といった具合にシーソーゲームのようになっている、さらに日本人の側も欧米人のイメージや期待に添って、日本人を演じる側面があることを補足した。
【記事執筆:山本真鳥(法政大学名誉教授・法政大学国際日本学研究所客員所員)】