【開催報告】第7回アフリカ開発会議・パートナー事業 国際セミナー「発展途上のアフリカ諸国における社会経済的変革と日本」(2019.8.29)2019/09/05
【開催報告】
2019年8月29日(木)、法政大学市ヶ谷キャンパス・ボアソナード・タワー26階スカイホールにおいて、国際セミナー「発展途上のアフリカ諸国における社会経済的変革と日本」が開催された。
本事業は8月28日(水)から30日(金)まで神奈川県横浜市で開催される第7回アフリカ開発会議のパートナー事業として、コートジボワールのフェリックス・ウフエ・ボアニ大学政治経済研究センターと法政大学国際日本学研究所の共催により行われた。
熊田泰章氏(法政大学)とアルバン・アウレ氏(フェリックス・ウフェ・ボアニ大学)のあいさつで始まったセミナーでは、「公共政策と開発」、「人材開発と経済の構造改革への道」、「日本がアフリカにもたらす社会経済的効果」、「経済と人間科学」の4つのパネルで西アフリカ諸国と日本の研究者13名が報告を行った。総合司会は安孫子信氏(法政大学)であった。
各報告の概要は以下の通りであった。
1. パネル1〈公共政策と開発〉
(1)水野和夫(法政大学[日本])/What can the government’s economic policy do?
戦後の日本経済のあり方を「戦後の高度成長期」(1956-1973年)、「第一次石油危機からバブル崩壊まで」(1973-1990年)、「バブル崩壊から現在」(1990年以降)に分け、西アフリカ諸国が日本経済の成功と失敗から学ぶべきことが検討された。
(2)オーギュスタン・ロワダ(ワガ第二大学[ブルキナファソ])/The challenges of governance in the process of socio-economic transformation of Africa.
アフリカ諸国の社会経済の発展とガバナンスの関係を、各国が置かれた歴史、国際関係、社会制度、経済などから分析し、発展の途上にあるアフリカにおけるガバナンスには変革を志向するリーダーシップと近代化への構想の必要性が説かれた。
(3)ジョン・カレンガ(法政大学[日本])/Japanese economic development in historical perspective: current lessons for Sub-Saharan Africa.
日本の経済的発展の過程を歴史的観点から分析し、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国にとって手本となるのは、教育の一層の普及による生産性の向上、「モノづくり」による起業家精神の養成、消費者による国産品の積極的な購入などだと指摘された。
(4)ママン・マラム(アブドゥ・ムムニ大学[ニジェール])/Levels of study and transformation of the informal sector to formal in Africa: Case of Niger.
2010年から2015年にかけて平均してGDPの60.4%を非公式経済が占めるニジェールの現状に基づき、非公式経済から公式経済への移行のためにも、教育水準の向上と人的資源の開発の重要性、さらに日本の一層の協力の必要性が示された。
2. パネル2〈人材開発と経済の構造改革への道〉
(1)大湾秀雄(早稲田大学[日本])/Challenges facing Japanese management in the era of digital globalization.
IT企業を中心とするニューエコノミーに対して有効に機能していない日本の人的資源管理の活性化として、多様な才能の登用を促す戦略の採用と次世代の指導者を育成する機会の拡大の重要性が実証的に指摘された。
(2)アルバン・アウレ(フェリックス・ウフェ・ボアニ大学[コートジボワール])/Inclusive business impact on employment quality in Côte d’Ivoire and Burkina-Faso
コートジボワールとブルキナファソでの調査の結果を通して、両国にとってインクルーシブ・ビジネス(IB)を実践することが雇用環境を改善していること、ゆえに西アフリカに進出する日本企業にはIBに配慮することが重要であることが示された。
(3)ババトゥンデ・イギュ(アボメイ・カラヴィ大学[ベナン])/The Japanese economic intelligence system: what lessons for Africa?
戦略立案などの積極的側面と国内企業保護といった防衛的側面を持つ日本の経済情報システムをアフリカに適用する可能性が検討され、特許に基づく創造性と長期的な展望がアフリカ諸国の発展のために重要な進路であると指摘された。
3. パネル3〈日本がアフリカにもたらす社会経済的効果〉
(1)公文溥(法政大学[日本])/Japanese firms in Africa: A possibility to contribute to economic development.
南アフリカ、ナイジェリア、エジプト、ケニア4か国に進出する日本企業5社や現地の政府系機関(
(2)ママドゥ・ティメラ(シェイク・アンタ・ジョップ大学[セネガル])/Socio-economic impact of Japanese cooperation in Senegal: From reality to perceptions / Example of the Cayar fishing sector.
健康、教育、社会資本整備、農業開発、環境整備など、日本がセネガルに対して行っている支援事業について検討し、日本の支援策がセネガルの発展に重要な役割を果たしていることが具体例とともに紹介された。
(3)ジュール・ザヌ(アボメイ・カラヴィ大学[ベナン])/The Japanese policy on official development assistance: What lessons for Francophone Africa.
日本による政府開発援助(ODA)がセネガルにいかなる影響を与えたかが日本の対アフリカ戦略に基づいて検討され、日本のODAがベナンの民主的な統治を支え、国民経済や国家財政の発展にも寄与していることが報告された。
4. パネル4〈経済と人間科学〉
(1)長谷部葉子(慶應義塾大学[日本])/A successful example of Japanese education practices in DR Congo.
2008年に始まった、コンゴに小学校から高校までを建設し、運営する取り組みである「コンゴアカデックスプロジェクト」を通して、持続可能な協働のあり方と成果を生んだ事例が紹介された。
(2)ギー・コル(アラッサーヌ・ウアタラ大学[コートジボワール])/The weigh of the impact of Japanese language education and culture in the development of Côte d’Ivoire.
国際協力事業団(現、国際協力機構)とアビジャン大学が1994年に開始した日本語学習プログラムを取り上げ、コートジボワールにおける日本語教育と日本文化がどのように普及してきたかが説明された。
(3)安孫子信(法政大学[日本])/Philosophy and social sciences: the problem of the superficiality of the emergence of modern Japan
日本の近代化の過程において、「日本の開化」を「皮相上滑り」と捉えた夏目漱石から出発し、物理と心理の総合を説く“philosophy”(「哲学」)を日本に導入した西周の取り組みの意義が検討された。
(登壇者一同)
各パネルの終わりには報告者及び聴衆による質疑応答が行われ、各報告の内容が適宜補足された。さらに、アフリカ側の参加者が持つ日本への評価の適切さや日本によるアフリカ諸国への支援のあり方の改善点が提起されるなど、個別の報告に止まらず、今後の日本とアフリカ諸国の関係を見据えた建設的な議論が行われた。
日本においてはしばしば「支援」の対象とみ見なされるアフリカ諸国が、日本にとって重要な「協働」の相手であること、政府と民間を含む日本側の継続した取り組みがアフリカ諸国とのよりよい関係を実現することが再確認されたこと、さらに経済学、経営学、政治学だけでなく、教育学、言語学、文化学などの多岐にわたる分野から日本とアフリカの関係が検討されたことは、本セミナーの重要な意義であると考えられた。
【記事執筆:鈴村裕輔(法政大学国際日本学研究所客員所員・名城大学准教授)】