【開催報告】繆 暁陽‍氏による外国人客員研究員研究成果報告会(2015.5.18)2015/05/20

法政大学国際日本学研究所
外国人客員研究員研究成果報告会

外国人客員研究員研究成果報告会

日 時: 2015年5月18日(月)14時00分~
場 所: 法政大学九段校舎別館 共同研究室4
報 告: 繆 暁陽‍ (中国北京週報社 編集員)
司 会: 王 敏 (法政大学国際日本学研究所専任所員、教授)

去る5月18日(月)、14時15分から16時まで法政大学九段校舎別館共同研究室4において、外国人客員研究員研究成果報告会が行われた。今回は、繆暁陽氏(北京週報社)が「なぜ日本人の9割が中国によくない印象を持っているのか?――研修レポート」と題して報告した。
繆氏は2015年1月26日(月)から5月25日(月)まで法政大学国際日本学研究所に外国人客員研究員として在籍しており、今回は4か月間の日本滞在中に行った調査と研究の成果の一部が報告された。
報告の概要は以下の通りであった。2014年9月、日本の特定非営利活動法人言論NPOと中国の中国日報社は2014年7月から8月にかけて行った第10回日中共同世論調査の結果を公表した。日本側の調査は有効回収標本数が1000件であり、「相手国に対する印象」の質問について、「良くない印象を持っている」と「どちらかといえば良くない印象を持っている」と答えた者の割合は93.0%で、2005年の第1回調査以来最高の数値を記録した。一方、中国に対して「良い印象を持っている」と「どちらかといえば良い印象を持っている」と回答した割合は6.8%で、過去最低であった。また、2014年12月22日(月)に日本の内閣府が発表した「外交に関する世論調査」(有効回答件数:1801件)では、中国に対して「親しみを感じる」が3.3%、「どちらかというと親しみを感じる」と答えたものが11.4%「どちらかというと親しみを感じない」者が30.4%、「親しみを感じない」が52.6%であった。
今回は、このような調査結果を元に、なぜ日本人の9割が中国に対して親しみを感じないのかについて考察した。その際、王敏氏(法政大学)と加藤青延氏(NHK)の二人から有識者としての見解を得るとともに、両氏の意見を分析の際の参考として活用した。
第10回日中共同世論調査の結果について、日本人が中国人対して良くない印象を持つ原因として上位に挙げられるのが「国際的なルールと異なる行動をするから」、「資源やエネルギー、食糧の確保などの行動が自己中心的に見えるから」、「歴史問題などで日本を批判するから」、「尖閣諸島を巡り対立が続いているから」であった。ここから、経済力や軍事力を背景とした中国の行動に対して日本人が「良くない印象」を抱きがちであることが推察された。
次に、回答者の中国に関する情報源について複数回答により確認したところ、96.5%が「日本のニュースメディア」から情報を得ており、「中国人との直接の会話」は3.5%、「中国への訪問」が0.8%であった。これは、回答者が中国への訪問や中国人との直接の会話ではなく、ニュースメディア、とりわけテレビを通して回答者が中国に対する見方を作り上げていること、さらに中国人にとっても日本を直接訪問した結果(1.8%)や日本人との直接の会話(1.0%)よりもニュースメディア(91.4%)や中国のテレビ番組(61.4%)によって相手国の像を形成していることが示唆された。ここから、日中両国の相手に対する印象の悪さは、相手国を訪問した結果ではなく、相手国に対する直接的な体験や理解の不足によることが推測された。
ニュースメディアを通して形成される相手国の像が否定的になる理由はいくつか考えられる。そして、その中の重要な点として挙げられるのが、「悪い話を多く伝える」というメディアの特徴である。すなわち、視聴者や読者を扇動することを特徴とするメディアの情報によって「あの国は自分の国のことを嫌っている」と思った者は、「嫌っている」と考えられている国や人々に対して好感を持てなくなる。これは、人々とメディアの関係を考える際に重要な点であり、客観的な報道が求められる理由でもある。そして、「外交に関する世論調査」において20歳代の中国に対する好感度が最も高かったのは、この世代が新聞やテレビを見ず、日常的にソーシャルメディアによって情報を得ていることが原因ではあろう。
一方、中国人と直接的な交流を行うことで日本人の中に相手に対する嫌悪感や批判的な態度が生じることがある。これは、日本における中国人の行動の中に日本人が嫌悪感を抱くような振る舞いがあることともに、日中両国の習慣の違いが中国人に対して日本人が否定的な考えを抱くことに繋がっていると考えられる。また、環境問題や経済発展に伴う貧富の格差の増大といった中国自身の課題や、世論調査の母集団が統計学的には意味のある規模であっても日本国民の全般的な傾向を知るためには必ずしも十分ではないこと、さらには調査の結果を単純化していることも、「日中両国間の感情の悪化」という見方を形成するために一定の影響を及ぼしているといえる。その意味で、「日本人の9割が中国を嫌っている」という見方は、衝撃的ではあっても実際の日本人の中国に対する適切に見方を反映していないと思われる。
さて、報告者は4か月間の日本滞在中に、合計50人以上の日本人に直接取材を行い、中国に対する印象や興味を持っている中国の話題について質問した。その結果、中国を訪問した経験を持つ回答者はいずれも自らの体験に基づいた印象や話題を述べており、中国に対して苦言を呈することはあっても中国に対して否定的な態度を示さなかった。また、政治的、経済的な話題よりも文化的な側面に言及するという点でも一致していた。これに対して、中国を訪問した経験のない者は、ニュースメディアの情報によって中国に対する印象を放していた。
それでは、今後、日中両国、とりわけ報告者の母国である中国において、両国民の親近感を向上させるためにどのような取り組みがなされるべきであろうか。
第一に注意すべきは、中国は政治や経済の分野で国力を増強させる必要はあるものの、中国が立ち遅れている環境技術や品質管理といった分野で日本から積極的に学ぶ姿勢を維持するということである。第二が日本に向けて中国の情報を紹介する際、単純化した情報を伝えないこと、報道に携わる者が日本との文化的な相違性について十分な知見を持つこと、日中の類似点に注意すること、現代の中国の魅力を日本に伝えること、国家同士の関係だけでなく、民間での有効促進に向けた取り組みを紹介することが重要である。三点目として挙げられるが、一般的な交流だけでなく、エリート層の交流活動の促進など、多様な交流関係の構築が必要である。そして、最後に中国の若い世代への教育をより充実させ、日本を含む各国との交流の妨げとなるような行動や考えを改めるよう努めなければならない。
このような取り組みはすぐに何らかの成果を挙げるということは難しいかもしれない。しかし、地道な努力を積み重ねることが最終的には日本と中国のより良い関係を実現することに繋がると信じ、報告者は帰国後も両国の友好の促進のために尽力したいと考えている。上記の報告から、繆氏が4か月間の日本滞在中に日本の文物に触れるだけでなく、多くの日本人と交流を結ぶことで、日本の実際の姿や等身大の日本人の様子を経験したことが示された。そして、こうした取り組みが今後の日中両国のあり方に一つの指針を与えたといえるだろう。

【記事執筆:繆 暁陽‍ (中国北京週報社 編集員)、記事執筆:鈴村裕輔(法政大学国際日本学研究所客員学術研究員)】

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会場の様子

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会場の様子

 

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