第1回研究会『旧東京教育大学における民俗学の研究と教育』(2012.5.25)
「国際日本学の方法に基づく〈日本意識〉の再検討−〈日本意識〉の過去・現在・未来」
研究アプローチ(2) 「近代の〈日本意識〉成立」
2012年度 第1回研究会
『日本民俗学・民族学の貢献』
日 時 2012年5月25日(金)
会 場 法政大学市ヶ谷キャンパスボアソナードタワー25階B会議室
講 師 竹田 旦(茨城大学名誉教授・創価大学名誉教授)
司 会 ヨーゼフ クライナー(法政大学国際日本学研究所兼担所員・国際戦略機構特別教授)
竹田 旦 名誉教授
法政大学国際日本学研究所の「国際日本学の方法に基づく<日本意識>の再検討—<日本意識>の過去・現在・未来」プロジェクトのアプローチ2「近代の<日本意識の成立>」では、「日本民俗学・民族学の貢献」2012年度第1回研究会を5月25日午後2時から開催した。
講師として、茨城大学名誉教授・創価大学名誉教授の竹田旦先生をお迎えし、「旧東京教育大学における民俗学の研究と教育─史学方法論教室の誕生から終焉まで─」というテーマでご発表頂き、討論を行った。今年米寿となる竹田先生は、非常に熱のこもった3時間近くのお話の後、参加者からの1時間以上にわたる熱心な質問に答えて下さった。
竹田先生は、日本民俗学の生みの親である柳田国男に民俗学研究所で直接教えを受けた後、昭和27(1952)年に新制の東京教育大学に新しく設けられた「史学方法論」(略称:史法)研究室の助手として、のちに和歌森太郎教授とともに日本で初めての正式な専門教育科目である「民俗学概説」などを教えながら、国立大学として最も早い時期から日本民俗学専攻の学生を育成してきた。当時の教育大学の教授陣には、東洋史の直江廣治、非常勤講師で馬淵東一、白鳥芳郎、中根千枝、金子エリカなどの民族学ないし文化人類学の第一人者がおり、どこにもみられない両みんぞく学の共同の意識が教育の面でも研究の面でも非常にはっきり表れていた。研究の面では、昭和33(1958)年から毎年手がけた民俗総合調査という大規模な調査活動を開始し、『くにさき』(吉川弘文館、1960年)をはじめ、9冊の優れた報告書を世に出した。ただ、その過程で、澁澤敬三の考えた九学会連合という共同の地域研究との良好な連携体制の反面、文化人類学との対立もあった。また、それを解消するにあたって、竹田先生から折口信夫先生、折口先生から柳田先生というルートをうまく活用した。もう一つの研究の分野では、昭和40(1965)年、東京教育大学民俗学研究室のなかに事務局を置く大塚民俗学会が発足し、機関誌として『民俗学評論』を定期的に発行、また長年にわたって大勢の執筆者の協力を得て『日本民俗事典』を編纂し、昭和47(1972)年にようやく出版した。
学生のなかには、早い時点から韓国の留学生も大勢いて、修士号や博士号を取得した台湾国籍や韓国国籍の修了生は、のちにそれぞれの国や地域で大活躍している。その延長として、韓国の民俗学会(現在の韓国民俗学会)と協力して、日韓共同調査を計画し実施した。特に竹田先生の韓国民俗学に関する優れた研究は最近まで続けられている。そういう意味で、柳田の伝統を受け継いだ一国民俗学を主張する研究者とはおおよそ違ったアジアの比較民俗の研究が東京教育大学で育てられた。
このような竹田先生のお話からは、本アプローチの「近代日本意識の成立における民俗学の貢献」というテーマに大きな、そして大変新鮮な刺激を頂いた。
【報告者:ヨーゼフ・クライナー(法政大学国際日本学研究所兼担所員・国際戦略機構特別教授)】
司会:クライナー教授
会場の様子