【受賞者発表】第7回ヨーゼフ・クライナー博士記念・法政大学国際日本学賞受賞者決定のお知らせ2021/11/04
第7回ヨーゼフ・クライナー博士記念・法政大学国際日本学賞 受賞者決定について
このたびは、第7回ヨーゼフ・クライナー博士記念・法政大学国際日本学賞に多数ご応募いただき
誠にありがとうございました。
厳正なる審査の結果、以下のとおり、受賞者1名を決定いたしました。おめでとうございます。
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◆受賞者
金 志映(キム・ジヨン)氏 (ソウル大学日本研究所 PD 研究員)
◆著書タイトル
『日本文学の〈戦後〉と変奏される〈アメリカ〉―占領から文化冷戦の時代へ』
(ミネルヴァ書房,2019年)
◆SUMMARY
本書は、占領期から冷戦期にかけての日本の文学空間を、日本を親米的な民主主義国家にすることを企図したアメリカの文化攻勢が強く働いた場として捉え、戦後日本文学における「アメリカ」の問題を考察するものである。そのために、文学の領域における文化冷戦の代表的な事例として、ロックフェラー財団(The Rockefeller Foundation)の文学者留学制度を取り上げる。
文化冷戦の強力な担い手としても知られるロックフェラー財団は、講和から50年代を通して民間組織として日米間の文化交流を先導し、日本において多岐にわたる文化事業を展開した。その一つとして財団は1953年に文学者を対象として1年間の留学を支援する創作フェローシップ(Creative Fellowship)を新たに始動させ、 以後62年までに多くの日本の文学者たちをアメリカへと招いている。講和からおよそ10年の間に、福田恒存、大岡昇平、石井桃子、阿川弘之、中村光夫、小島信夫、庄野潤三、有吉佐和子、安岡章太郎、江藤淳といった戦後を代表する文学者たちが、この留学プログラムを通して相次いでアメリカへ渡った。財団の文学者留学制度は、冷戦秩序構築の只中にあった占領後期からポスト占領期への移行期に、文学の領域が俄かに文化冷戦の場として浮上したことを鮮明に映し出す事例である。 本書は、このロックフェラー留学を通して文化冷戦の場に身を置いた作家たちの作品を取り上げて考察することにより、占領期から冷戦期にかけて文化領域をめぐる政治的な磁場のなかで、戦後文学における「アメリカ」の表象がどのように形作られていったのかを明らかにすることを目的とする。筆者が米国ニューヨーク州スリーピーハロー所在のロックフェラー財団文書館(Rockefeller Archive Center)で調査発掘した新資料をも紐解きながら、主に以下に挙げる三つの層において考察を試みた。第一に、占領期から講和後の文化冷戦期にかけて、アメリカが日本の文化や文学にどのように介入したかである。第二には、アメリカによる文化攻勢が働くなかで、文学者たちがどのように「アメリカ」を経験し、「アメリカ」への態度を形成していったかである。第三には、「アメリカ」表象史としてみたときに、戦後の文学作品のなかの多面的なアメリカ・イメージがどのように表れ、変化したかを明らかにすることである。アメリカ側の対日文化攻勢の動きと、日本側の表現の軌跡を対置させることにより、文化冷戦をアメリカによる一方的なプロパガンダとしてみる観方を脱し、日米相互の力学が浮かび上がる構成とした。 以上の考察を通して本書は、アメリカによる冷戦下の文化的攻勢がポスト講和期の文学空間に奥深く入り込んでいたことを示すとともに、「アメリカ」の表象をめぐる日米間のせめぎ合いの諸相を浮かび上がらせる。またより大きくは、日本の「戦後」の在り方や、その形成における「アメリカ」の意味を問い直す。 |
◆授賞式および記念講演会を2022年3月9日(水)に開催予定です。詳細は後日お知らせいたします。