【開催報告】2014年度第5回東アジア文化研究会(2014.8.6)報告記事を掲載しました2014/11/05
「国際日本学の方法に基づく<日本意識>の再検討−<日本意識>の過去・現在・未来」
研究アプローチ(3)「<日本意識>の現在−東アジアから」
2014年度 第5回東アジア文化研究会
中国における日本研究の変容
−北京大学を例として
日 時: 2014年8月6日(水)18時30分〜20時30分
場 所: 法政大学市ヶ谷キャンパス 58年館2階 国際日本学研究所セミナー室
報 告: 孫 建軍(北京大学外国語学院 准教授)
司 会: 王 敏 (法政大学国際日本学研究所専任所員、教授)
一、北京大学における日本研究の伝統
北京大学の前身である京師大学堂は、1898年に設立された当時から日本と深く関わっており、「お雇い外国人」として多くの日本人学者が教鞭をとっていた。1912年に国立北京大学に校名が変更され、周作人、周樹人などを中心とした日本留学帰りの学者が大いに活躍した。1949年以降、劉振瀛、周一良などによって、中国における日本文学、歴史の研究を引っ張ってきた。1978年に始まった改革開放が契機で、北京大における日本研究は本格的に再開され、厳紹?教授(中文系、日本における中国古典籍の整理)、王暁秋教授(歴史系、中日文化交流史)の研究成果が日中の学界から注目を浴びた。21世紀に入り、北京大学における日本研究の分野が一層広まり、研究者の数も大幅に増えることによって、より高質な研究成果が期待されている。
二、北京大学における日本研究・教育機関
北京大学は、5つの学部、41の学院・系、271の研究所を有する。 ここで言う「学部」は日本の大学における学部に較べれば、より範囲の広い学問を指しており、大きく分けて理学部、情報工学部、人文学部、社会科学学部、医学部とある。そのうち、日本研究が盛んな学部は人文と社会科学である。人文学部では外国語学院・歴史学系・中文系・対外漢語学院・哲学系、社会科学学部では国際関係学院・経済学院・法学院・政府管理学院・教育学院に集中している。各機関に所属している日本研究者は合わせて50名以上に上る。
日本研究・教育機関は主に次の三つである。
(一)北京大学日本研究センター。1988年に設立された当センターは中国の大学でも設立時期が早いとされている。専属の研究者が配置されていないが、政治・経済・文化・社会・歴史・文学等の分野の学者がメンバーとなり、横断的且つ学際的総合研究を図っている。しかし全学的に見れば、日本研究の関係者が網羅されていないのが現状である。シンポジウムの開催や紀要『日本学』などを通じ、研究成果が公開されており、紀要は18号まで出版されている(2014年現在)。
(二)北京大学現代日本研究センター。1990年成立した当センターは中国教育部が国際交流基金と共同運営している「北京日本学研究センター」事業の一部である。1年間の養成講座であるが、設立当初から政府や地方団体、企業、研究機関の若手幹部を対象としていたため、「幹部班」とも呼ばれていた。2000年−2005年まで「幹部班」と大学院生を対象とする「院生班」が併存していたが、2005年以降、北京大学国際関係学院・政府管理学院・経済学院・法学院・光華管理学院に在籍中の博士課程大学院生に絞って募集する方針に変更した。(一)の人文系に対して、社会科学系に重点が置かれる意図がはっきりしており、しかも教育者ではなく、若手研究者の養成に力を入れる姿勢が見て取れる。当センターでは若手研究者の交流に積極的に関わり、中国における日本研究の重鎮でもある南開大学・復旦大学と連携して、毎年交替して「三大学博士フォーラム」を開催している。紀要『未名日本論叢』は2011年までに第4号まで発行されている。
(三)北京大学外国語学院日本言語文化学科。日本語教育と人文研究を中心とした日本研究を両立させている機関である。北京大学における日本語教育は20世紀の初頭まで遡り、中国で初めて日本言語文学修士課程、博士課程が開設されている。日本語、日本文学、日本文化、日中翻訳コースをもっており、専任教員17名、全員博士号を取得している。国際学術シンポジウム50数回、専門書25冊、教材80冊、訳著30数冊、学術論文600篇以上、国内外学術賞20個以上といった実績を誇る。学部生、修士課程、博士課程合わせて年間約60名を募集。1998年には北京大学日本文化研究所を成立し、学科の教員に加え、加藤周一など、内外の有名な学者を招聘して、研究を充実させてきた。紀要『日本言語文化研究』は第10号(2013年現在)まで発行されている。
三、北京大学における日本研究の新しい特徴
(一)将来を見据えた国際的研究ネットワークの構築。日本国籍の研究者を積極的に採用し、研究者同士の国際的な連携に力を入れている他、大学院生レベルの国際交流も盛んに行われている。歴史学部では毎年京都大学などと定期的にゼミが行なわれており、日本言語文化学科では筑波大学との間に教員や大学院生を交えた交流が続けられている。
(二)力強い社会発信。北京大学出版社では、1990年から2014年8月現在の間、およそ400冊の関連書籍が刊行されている。語学書、専門書、叢書など全般的に発信を続け、NPOや災害救助、アニメ文化など新しい分野の研究成果が目立つ。
(三)よりハイレベルな日本語教育及び日本研究を目指して。日本語副専攻が設けられる他、学部教育改革の一環として、地域研究の基盤がより整備されるようになり、日本研究も期待される。2012年には大学院専門職課程として、実践的な日本語運用能力を養成するためにMTI(翻訳通訳修士)コースが新設された。終了後は、高い日本語能力を活かし、研究の道に進む者もいる。
【記事執筆: 孫建軍(北京大学外国語学院 准教授)】
左より:王敏氏(司会者)、孫建軍氏(報告者) |
会場の様子 |