第4回(2018年)

第4回ヨーゼフ・クライナー博士記念・法政大学国際日本学賞

 

◆受賞者
Dennitza Gabrakova (デンニッツァ・ガブラコヴァ)氏 (ヴィクトリア大学ウェリントン)

◆著書タイトル
The Unnamable Archipelago: Wounds of the Postcolonial in Postwar Japanese Literature and Thought
(Brill, May 2018)

◆SUMMARY

The Unnamable Archipelago: Wounds of the Postcolonial in Postwar Japanese Literature and Thought  (Brill, May 2018)
邦題: 名指しえぬ列島:戦後日本文学・思想におけるポストコロニアルの傷口
著者: ガブラコヴァ・デンニッツァ

この著書は、植民地主義にかかわる思想を「トラウマ」や「主権」という問題にそって、戦後日本文学や現代思想を英語で論じた初めての試みである。本書は構成上、「島」というモチーフを手がかりに、数名の重要な戦後作家の作品を分析したものである。その作家は大庭みな子、有吉佐和子、日野啓三、池澤夏樹、島田雅彦および多和田葉子である。それぞれの作家の作品分析を通じて、作品における「島」の空間の造形は、「島国」日本という共同体に対する複雑な問いかけであり、植民地化の経験を経た世界の異なる地域との緩やかな連帯感が彷彿させられている場だと指摘をした。この問題系に理論的な光を当てるべく、ポストコロニアリズム思想を日本の文脈に位置づけようとしている思想を論考の1つの枠組みに立てた。とりわけ、今福龍太や鵜飼哲の文化評論が「島」や「群島」というモチーフが持つもっとも具体的なレベルからより抽象的なレベルまでの発揮力を中心に、徹底的な分析及び英語訳が施された。その分析を通して、現代日本における沖縄という「島」からの問いかけから、太平洋やカリブ海における世界的なアイデンティティの再構成までの、主権、軍事力、経済力などの戦後日本の歴史の主要な側面を照らし出すことができた。今福龍太や鵜飼哲は、現代日本における重要な評論家であるにもかかわらず、英語圏で十分に論じられてこなかったことが、本書を英語で執筆する主な理由である。それに加えて、それぞれ異質な性格を持っているものの、文学的に優れている大庭みな子、有吉佐和子、日野啓三、池澤夏樹や島田雅彦の作品にいたっても、英語圏で十分に注目されてなかった事実もある。それぞれの作品を、「島」・「離島」というモチーフによって結びつけた本書の分析方法は、戦後日本における一種の文学的な「群島」として再現することにつながったと言えよう。多和田葉子による、ヨーロッパの周辺に位置する離島が舞台の『アルファベットの傷口』を、このような文学的群島の中に抱え込む分析によって、多和田文学において十分に論じられてこなかった、「開発」に関わる歴史的な批判力が浮き彫りになった。

 

◆授賞式および記念講演会を2019年2月4日に開催いたしました。詳細はこちら