【開催報告】国際日本学研究所後援 日韓童謡国際フォーラム「童謡を子どもの心に」(2020年1月31日)2020/04/01

平成29-31年度科学研究費助成事業―若手研究(B)採択
「まど・みちおとユン・ソクチュンの童謡の比較―歌われる童謡を巡って」

■会場:(韓国)国立子ども青少年図書館4階講堂

■報告者:張晟喜(法政大学)/畑中圭一(児童文学研究者)/キム・ヨンヒ(韓国児童文学学会会長) /チャン・ユジョン(檀国大学教授)、シン・ヘスン(延世大学教授)/田中修二(ピアニスト)

■日時:2020年1月31日(金)13時~18時

■司会:張貞姫(方定煥研究所所長)/鄭善恵(韓国児童文学学会副会長)/パク・サンジェ(韓国児童文学人協会首席副会長)

■主催:張晟喜(平成29-31年度科学研究費助成事業(若手研究(B))「まど・みちおとユン・ソクチュンの童謡の比較―歌われる童謡を巡って」[研究課題番号:17K13437]/(韓国)方定煥研究所

■後援:(日本)法政大学国際日本学研究所/日本児童文学者協会/こすもすの会/(有)ユージンプラニング/(韓国)国立子ども青少年図書館/韓国児童文学人協会/韓国児童文学学会/(社)新芽の会

本フォーラムは、平成29-31年度科学研究費助成事業―若手研究(B)「まど・みちおとユン・ソクチュンの童謡の比較―歌われる童謡を巡って」(研究課題番号:17K13437)の研究成果を総括するとともに、日韓童謡の交流を目指し韓国の方定煥研究所と共催した日韓童謡国際フォーラム「童謡を子どもの心に―日韓を代表する童謡詩人 まど・みちおとユン・ソクチュンの童謡の世界―」である。フォーラムは1部:開幕の辞、特別企画「歌の園」、基調講演、2部:詩の観点・歌の観点からの講演、3部:質疑応答からなり、5名(日本2名、韓国3名)の報告者が発表を行った。各発表の概要は以下の通りである。

 

(1) 張晟喜(法政大学)―「まど・みちおとユン・ソクチュンの童謡比較―子どもが共感した世界」

まど・みちおとユン・ソクチュンの童謡がなぜ子どもたちに歌われ続けるのかについて、現在も歌われている50曲ずつの童謡を対象に、子どもが歌に共感するという心の作用を[共感要素]という指標で示し、考察した。その結果、二人の作品に認められる[共感要素]が多様性に富んでいることと、マイナスの暗い領域は全くないことが、共通の特徴として現れた。これらの結果は、童謡が歌い継がれる理由と関係性があると推測された。

(左)通訳者:ファン・ジニ氏 / (右)基調講演者:張晟喜氏

 

(2) 畑中圭一(児童文学研究者)―「日本童謡史におけるまど・みちお」

100年に及ぶ日本童謡史の中で、まど・みちお(1909~2014)の童謡詩人としての位置付けがなされた。音楽性、歌謡性よりも文芸性が重んじられ、すぐれた「詩」であることが追究された初期の童謡の中で、まどは文芸性を志向しながらも、一方で子どもが楽しめる歌をめざし、娯楽性を強調したこと、また幼児童謡を確立したことはきわめて重要であると評価された。(講演代読:張晟喜氏(法政大学))

 

(3) キム・ヨンヒ(韓国児童文学評論家)―「ユン・ソクチュンの童謡文学と詩の意識」

100年を迎える韓国の童謡の歩みの中で、ユン・ソクチュン(1911~2003)の存在は最も重要であると指摘された。世代を超えて歌われる生命力を持った彼の童謡の特徴は時に「現実を無視した楽天主義」などの評価がなされたが、それはユンの児童文学の全体としての研究視点の足りなさ、「歌詞童謡」が持つ限界性に由来したことでもあると分析された。ユンに対する正しい評価は韓国童詩文学史を正しく理解する道であることも強調された。

(左)通訳者:パク・ジョンジン氏 / (右)講演者:キム・ヨンヒ氏

 

(4) チャン・ユジョン(檀国大学)、シン・ヘスン(延世大学) ―「 ユン・ソクチュン童謡:読む・見   る・ 歌 うー『尹石重童謡 百曲集』を中心に」

『尹石重童謡 百曲集』(1954年刊)を分析し、ユンの童謡の特徴が歌詞と音楽の両面から検討された。また、ユンの童謡の作曲者の分布状況の分析の結果、文学的形式には難易度よっての特徴はあるものの、音楽的形式においては歌詞伝達に適した方式で行われていると報告された。また、子どもの成長における童謡の段階別の教育的視点からの考察があり、童謡の存在の価値と童謡の機能についても考えらせられた。

 

講演者:(左)チャン・ユジョン氏 / (右)シン・ヘスン氏

 

(5) 田中修二(ピアニスト)―「音楽的視点から見たまど・みちお作品の魅力」

現在の日本の童謡の実態とあり様について報告とともに、演奏家として見たまど・みちおの童謡の魅力について考察された。その中で、実際の演奏によるまど・みちおの童謡の曲における注目点も指摘された。今回の報告を通して、童謡の魅力が伝わるためには作詞家、作曲家とともに演奏家の存在がいかに重要であるかを気付かされ、童謡研究における実際の演奏も含めた総合的な研究の重要性が指摘された。

(左)通訳者:ファン・ジニ氏 / (右)講演者:田中修二氏

 

今回のフォーラムは文学的な観点と音楽的な観点からの報告が一緒に行われ、これまでにない日韓童謡の研究の姿として意義深いものとなった。現在、子ども達に童謡が歌われなくなってしまった理由や日韓童謡の実態についても意見を交わし、これからの日韓童謡の姿を模索する機会となったことも大きな成果であった。報告者、来場者(日本7名、韓国49名)、平和芸術合唱団の児童、さらに本フォーラムを後援してくださった法政大学国際日本学研究所・韓国国立子ども青少年図書館をはじめ、各後援団体の協力と支援に深い謝意を表す次第である。

会場の様子

【記事執筆:張晟喜(法政大学国際日本学研究所客員学術研究員)】

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