外国人客員研究員の研究報告会開催報告 テーマ:日本語の配慮表現に関する一考察一一日本語教育の視点から(2018.8.7)2018/10/11

日時:2018年8月7日(火)

会場:法政大学大学院701教室

報告者:饒瓊珍(法政大学外国人客員研究員、雲南大学外国語学院准教授・学部長)

主催:法政大学国際日本語研究所 王敏研究室

【開催報告】

猛暑日が続いている8月7日、王敏先生の法政大学大学院生向きの集中講義において、研究発表をさせていただいた。

発表内容は配慮表現という課題をめぐって、主に本テーマを取り上げる契機・価値・意義と日本語配慮表現の概念、先行研究の概要、代表的な研究成果、日本語配慮表現の原理、配慮表現の発話機能、発話に関する中日の比較など、七項目に分けて報告した。

日本語配慮表現は、日本人の対人的コミュニケーションにおいて、話し手は聞き手との関係をなるべく良好に保つことに配慮して用いられる言語表現である。しかし、配慮表現の方法にはバリエーションがあり、文法的なカテゴリーも多種多様である。それらの表現から日本文化の特徴の一面が窺われ、日本語の表現における特徴も窺われると思う。即ち、日本人は強い集団志向があり、また、同属の者に対しては親しみを持ち、関係性を良好に保ちたいという気持ちが働き、配慮慮表現が用いられる。相手との親疎関係に常に気配りして相手と自分とは同属関係のうちものか関係の薄い外ものかそのケジメがはっきりしている。文法的なカテゴリーから見ると前置き表現、文末表現、副詞的表現、利害誇張表現、授受表現、間接的表現、言いさし、終助詞など、様々な表現で話し手が聞き手に対する気配りを表すことが可能である。

日本語の配慮表現の研究は1997年に生田(『コミュニケーションと配慮表現』山岡政紀・牧原功・小野正樹著 明治書院 平成22年2月20日 初版発行P142)によってBrownとLevinsonのポライトネスが紹介され、その際に日本語の用例が用いられ、それによって日本語にも同様の言語現象があることを言語学関係者に気付かせた。それは日本語における配慮表現研究の実質的な端緒だといえる。日本語の配慮表現における研究の主流が「語用論」という視点からの研究の方が中心であり、言語的な原理は欧米の言語学者の影響を受け、英語との対比研究が多い。特にGeoffrey Leech(リーチ)の語彙論の影響、Lakoff·R(レイコフ・R)、 Brown(ブラウン)、 Levinson(レビンソン)のpoliteness(ポライトネス)理論の影響を受けている。FTA(face-threatening-act)を回避するための言語行動、つまり人と人とのコミュニケーションにおいては、相手のフェイスを脅かす場合が数多く存在する。相手のフェイスを脅かさないように言語行動を行い、どんな時にどのような言語行動を選択するかは多種多様である。

日本語の配慮表現の原理の核心は、話し手と聞き手の遣り取りから表れる利益と負担という面にあるといえる。つまり、日常コミュニケーションにおいて日本人同士は話し手としてはなるべく、自分の利益が大きく、相手の負担が大きい、逆に話し手としての自分の利益が大きい、聞き手としての利益が小さくなる表現をするように気配りしている。

発話する時、話し手は相手視点に立って聞き手への配慮をしながら、話を切り出し、相手に不愉快な気持ちにならないように、前置き、言い回り、間接表現、言いさしなどいわゆる以心伝心という表現方法が用いられる。日本人が会話をする時には人称代名詞がほとんど省略され、特に第一人称の「わたし」と第二人称の「あなた」は日常の談話の中ではほぼ使われない。それは日本語教育からみると、殊に中国人日本語学習者にとっては、発想の違いによる発話の方法の違いがあるゆえに、日本語母語話者とコミュニケーションをするとき、誤解が生じたり、使っている日本語に違和感を感じさせたりする場合がよくある。

日本と中国は同じ漢字圏に属し、お互いに影響し合い、文化的に共通的な面がありながら、異なっているところの方が多い。その違いは、両言語の表現のそれぞれの特徴から窺わる。日本語の表現における特徴として、曖昧表現も婉曲表現、間接表現、言いさし表現などが含まれる配慮表現については日本文化の一面が表れると思う。

(記事:法政大学外国人客員研究員 饒瓊珍)

(中央が饒瓊珍氏)

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