第8回東アジア文化研究会 『周恩来の中日関係観』(2013.12.18)

「国際日本学の方法に基づく〈日本意識〉の再検討−〈日本意識〉の過去・現在・未来」
研究アプローチ(3)「〈日本意識〉の現在−東アジアから」

2013年度 第8回東アジア文化研究会
周恩来の中日関係観


  • 日 時: 2013年12月18日(水)18時30分〜20時30分
  • 場 所: 法政大学市ヶ谷キャンパス 58年館2階国際日本学研究所セミナー室
  • 報 告: 曹応旺(中共中央文献研究室 研究員)
  • 通 訳: 林欐
  • 司 会: 王 敏 (法政大学国際日本学研究所専任所員、教授)

一、周恩来の在日経験
周恩来は何回も訪れてきた日本の方々に自分が日本で勉強し生活した体験を話している。「私は1917年9月から1919年4月まで日本で一年半暮らした。日本を離れる時、神戸で船に乗ったが、桜の花が満開の京都に一ヶ月泊まっていた。船で洞窟を通って、琵琶湖に行った。琵琶湖はとても綺麗だった」と周恩来は振り返る。

周恩来は日本滞在の日記にこう書いている。「日本に来てから、すべての事について学ぶ目で見るべきと思うようになった。日本人の一挙手一投足、すべての行事などを私たち留学の人はきちんと留意すべきだと思った。私は毎日一時間余りを使って新聞を読んでいる。時間は大切だというが、日本の国情などをちゃんと知るべきだ」。こうした観察と学習によって、「日本は非常に美しい文化がある」、日本人民は勤勉で勇敢で叡智だと周恩来は認識するようになり、日本での学習と観察を通じて、「新しい思想」を切り開き、「新しい学問」を求め、「新しいこと」をやるべきだと周恩来は悟り、その後、マルクス主義を選択し、中国の近代化のため生涯奮闘するようになったことに大きな影響を与えている。

二、「我々は‘同文同種’である」
これは日本の方から持ち出された話だが、周恩来はそれに賛同し「先ほど改進党の先生が我々は‘同文同種だ’と言われた。したがって、我々はこういった友誼を踏まえて中日関係を改善させることはまったく可能だ」と主張した。

文字については、中日両国とも漢字を使う。周恩来は日本語が下手だったが日本留学の時、毎日日本の新聞を一時間以上読んでいた。文化では、古代中国の多くの古典が日本に伝わって、日本民族の思想の重要な源となった。中日両国は相互理解がもっとも深く、「歴史上、両国は文化往来がとても頻繁だった」、「我々の文化は互いに交流し、影響しあった」と周恩来は言う。慣習では、中日両国の共通点も多い。

中日両国は人種と血縁も密接な繋がりがある。「戦争は人々を対立させたものだったが、互いの接触と理解も増やしている。ご存知のように、5000名余の日本女性が中国人と結婚している。これは歴史上稀なことだ。両国はすでに親戚関係となっている」と周恩来は言う。

三、如何に中日間の歴史を見るべきか
「我々両国の歴史においては、二千年もの友好往来と文化交流を有して、両国人民は深い友情に結ばれている。我々はそれを大切にすべきだ」。1894年以来の数十年間の中日関係は良くなかったが、「数千年と比べれば、60年は大したものではない」と周恩来は言う。
1894年以来の中日関係の歴史をいかに見るべきか?周恩来はこう考える。
第一に、「1984年以後の半世紀にわたり、日本軍国主義者の中国侵略によって、中国人民が重大な災難を蒙ったが、日本人民も深く被害を受けた。前の事を忘れず、後の戒めと為す。こうした教訓を我々はしっかりと覚えるべきだ」。第二に、日本軍国主義者を広範な日本人民と厳格に区別すべきだ。第三に、すくなくない日本人は反戦同盟に参加し、中国の解放戦争に参加して、中国革命の勝利に貢献した。第四に、中国に対する日本の侵略は中国人民を目覚めさせる役割と反面教師の役割があった。第五に、近代以来の日本の工業化と日本の軍国主義を区別すべきだ。

四、如何に中日関係を処理すべきか
極東では日本と中国の関係が平和に対して決定的役割を果たす。中日両国が友好なら双方にとって有利であり、非友好なら、双方にとって不利だと周恩来は見る。

如何に中日友好関係を発展させるべきか?周恩来はいくつかの重要な原則を出している。一つは平和共存を堅持すること。「正常な往来に従ってやれば中日の文化交流は大きな発展力がある。鍵は平和共存だ。どちらも別の思惑を持つべきではない」。二つ目は求同存異を堅持すること。周恩来は松村謙三と会談した時、「紛争はありうることだが、総じて言えば、求同存異ができるはずだ」と指摘し、田中総理を歓迎する宴会では、「大同を求めて、小異を残す」と主張。三つ目は礼尚往来(礼は往来をたっとぶ)、友好は先。松村謙三との会談では「私達の政策はこうだ。私達に友好の国ならよ、私達はり一層友好の態度で付き合い、私達を敵視するなら、私達も同様の態度で抵抗する」。「これらの原則を言葉二つで言えば、友好は先に、抵抗を後にすることだ」と周恩来は説明する。四つ目は前を見つめて大局を重んずること。「山本先生は謝罪の話をされた。これはもう過ぎ去ったことで、再び持ち出さなくていい。双方とも前を見つめるべきで、中日両国人民は永遠に友好していくべきだ」と周恩来は訪中した山本熊一に語る。その後、彼はまた日本の友人に、中日両国は小によって大を失うべきではなく、中日平和友好は大局であり、小局は大局に従うべきで、大局は小局に従うべきではないと言う。五つ目は軍国主義を警戒すること。「多くの日本人民は平和、独立、中立と民主主義の道を希望していると思う。ここ数年の国民運動の発展はこれを語っている。けれども、軍国主義を復活しようと、日本の昔の道に戻ろうとする一部の人もいると私達も留意している」。六つ目は中日関係に対する米国の要素に的確に対処すること。日本は平和の役割を果たす限り、太平洋が太平になる。これは米国に有利であり、中国に有利であり、日本にも有利である。これこそ、周恩来が望んでいることだろう。

【記事執筆:曹応旺(中共中央文献研究室 研究員)、林欐】

左より:王敏氏(司会者)、林欐氏(通訳者)、 曹応旺氏(報告者)

会場の様子