天皇・天皇制アルザスシンポジウムにむけての第2回勉強会(2008.7.12)
学術フロンティア・サブプロジェクト1 異文化研究としての「国際日本学」の構築
天皇・天皇制アルザスシンポジウムにむけての第2回勉強会
「『王権』研究の現状」
報告者 荒木 敏夫 氏 (専修大学文学部人文学科教授)
・日 時 2008年7月12日(土)14時00分〜16時00分
・場 所 法政大学市ケ谷キャンパス 58年館2階国際日本学研究所セミナー室
・司 会 安孫子 信 (法政大学国際日本学研究所所長)
2008年7月12日(土),14時から16時過ぎまで,法政大学市ヶ谷キャンパス58年館2階国際日本学研究所セミナー室において,「天皇・天皇制アルザスシンポジウムにむけての第2回勉強会」が開かれた.今回は専修大学文学部人文学科教授荒木敏夫氏から,古代の天皇・天皇制について,「「王権」研究の現状」というテーマでレクチャーをしていただいた.
前回に引続きやはり内輪の会ということもあって10名ほどの参加者であったが,出発点での日本の天皇制の諸特徴と,その後も通じて天皇制ということで真に問われるべきことについて,荒木氏から,行き届いた説明をしていただいた.
すなわち,「王権」という言葉に留まり,天皇制をあくまでも「日本型王権」として把握しようとすることで,天皇制の内で,普遍的な王権論に包摂されていく部分と,そこからはみ出ていく特殊なものとがより明確に腑分けされていくはずである.地理的にまた歴史的に多様に存在する諸々の王権との比較によって,天皇制のより相対的な観点からの把握を進める必要がある.
日本の天皇制についてはその神秘さ,特異さを安易に持ち出す不可知論的立場がいまだに根強い.天皇制の‘一貫性’,‘<自然>さ’,‘不執政性’を言う主張がいまだに多くの議論を呪縛している.天皇制では近代と前近代とは峻別すべきものであろう.また,天皇制における<作為>はあくまでも<作為>と見なすべきであろう.また,天皇はまずはやはりれっきとした政治権力の所持者とすべきであろう.
例えば,古代律令制下の天皇は「天皇大権」という形で独自の政治権力を有していた.また貴族達の「合議」というのも,あくまでも天皇の「専制」支配下のものであった.問題はこのような政治権力がどう形成され,またどんな構造を有していたかなのである.そこに日本独特なものがあったのかなかったのか.少なくとも,構造については,「譲位」が導入されて,上皇—天皇といった仕方で支配が多極化していったことはきわめて日本的なことと見なされ得るのである.
以上,今回の勉強会では,主に古代の天皇・天皇制の検討を通じて,日本の天皇・天皇制の根幹を再認識することができた.
【記事執筆:安孫子 信(法政大学国際日本学研究所所長、文学部教授)】