【開催報告】第11回ヨーゼフ・クライナー博士記念・法政大学国際日本学賞授賞式および記念講演会(2026年1月20日)2026/02/13

第11回ヨーゼフ・クライナー博士記念・

法政大学国際日本学賞授賞式および記念講演会

日時:2026年1月20日(月) 16:00~17:30 (対面開催+オンライン配信)
■受賞者  森本 涼(ハーバード大学ライシャワー研究所、助教授)
■司 会  横山 泰子(法政大学国際日本学研究所長、理工学部教授)
■挨 拶  髙田 圭(法政大学国際日本学研究所専任所員、准教授)
■祝 辞  ヨーゼフ・クライナー(法政大学国際日本学研究所客員所員)

2026年1月20日に第11回ヨーゼフ・クライナー博士記念法政大学国際日本学賞の授賞式が開催された。本賞はヨーロッパを代表する日本研究者であり、法政大学国際日本学研究所(HIJAS)の設立以来、その発展に貢献してきたヨーゼフ・クライナー博士の功績を称え、日本国外に拠点を置く若手日本研究者の活動を奨励する目的でHIJASが2014年に創設したものである。11回目となる今回は、厳正な審査の結果、ハーバード大学ライシャワー研究所の森本涼(Ryo Morimoto)氏によるNuclear Ghost: Atomic Livelihoods in Fukushima’s Gray Zoneへの受賞が決定した。

今回の授賞式は、受賞者の森本涼氏がアメリカ・ボストンから来日し、またクライナー博士も市ヶ谷に足を運ばれ、久々の対面での開催となった。横山泰子所長の司会で行われた授賞式では、正賞の賞状と副賞の賞金が授与された。続く開催の挨拶において髙田は、以下のように受賞作の概要と特筆すべき点を述べた。まず、本作品は、3.11後のフクシマの人々がどのように政府や技術者による政策決定に翻弄されながら放射能とともに生活をしているのか、彼(女)たちの生活実態と意識を描いた人類学的研究である。本書の最大の成果は、日本語ネイティブのいわゆる「ネイティブ人類学徒」として、2013年から2020年にかけて南相馬市において丹念にフィールドワークを行い、福島第一原発事故によって生じた地域コミュニティの実態をまとまった形で英語の書籍として世界へ公表した点にある。原発事故以降のフクシマは、放射性物質の高低という「科学的知見」ばかりに目が向けられ、そこで生活をする地域の人びとの姿は表に出てこなかった。ただ実際には、地域の人びとは、受賞作のタイトルになっているように「放射能お化け(nuclear ghost)」につきまとわれながら、地元で生き、また最期を迎えたいという思いで生活をしてきた。森本氏の作品は、南相馬市の生活者を単純な「被害者」として扱うことは避けながらも、地域に深く入り込み、人びととの「縁」を紡ぎながら心を解きほぐしていくことで、生活者が持つ複雑でアンビヴァレントな苦悩に迫っている。そして、こうした実態を日本や東北地方の文化・歴史的コンテクストに精通していない読者に向けて丁寧に説明しながら、読者を惹きつける英語表現で見事に描いた作品となっている。このような仕事は、日本語ネイティブでありながら、アメリカないしは英語圏の受け手、特に彼らのフクシマへの眼差しをよく理解しているからこそなせる技であり、日本と世界をつなぐ見事な「国際日本学」的な成果であった。そして、クライナー博士による祝辞では、クライナー賞設立の経緯と過去の優れた受賞作を例に挙げながら、本賞が若手日本研究者の登竜門になっていること、そして今回の森本氏の論考もその例に漏れず、素晴らしい国際日本学の仕事になっていると評された。また「国際日本学」が政府の政策に影響力を及ぼしていくことに期待を寄せ、森本氏の人類学的な基礎学問の知見が政策に取り入れられていくべきだと激励を込めた祝辞が述べられた。

授賞式の後、森本氏による”Nuclear Ghost: Atomic Livlihoods in Fukushima’s Gray Zone in 2026”と題する受賞記念講演が行われた。本報告は、書籍の概要を2026年現在の時点を含めて論じた上で、新たに取り組み始めているプロジェクトについての紹介がなされた。講演の中では、世間では当たり前のように受け止められてしまった3.11後のフクシマの実態に対して、幾つもの人類学的な問いかけが投げかけられた。例えば、それまで人びとの生活に根付いた地域の境界とは全く異なる放射線濃度に基づいた境界が設定されたことで、人びとの日常や意識に多大な影響を与えたこと。また、除染土の集積場を放射能という見えない「お化け」を可視化する装置として捉え、それを近隣で生活する人びとが、放射性物質が取り除かれている証として肯定的に受け取る一方で、先祖の土地が汚されているという認識を持つなどのアンビヴァレントな意識が紹介された。そして森本氏は、最後に現在取り組んでいるプロジェクトとしてフクシマで利用されているロボット技術の人類学的研究について触れ、その有用性を認めつつもロボットの活用がかえって人びとを放射能の問題から目をそらす働きを持ってしまうのではないかという危惧を示された。フクシマ原発事故から15年を経る中で、改めてフクシマに対して「当たり前」になってしまっている私たちの感覚を問いただし、地域で暮らす人びとの認識へと誘う貴重な報告であった。

今回はアメリカを拠点にする応募者による英語での報告というこれまでとは異なる趣向の授賞式となったが、受賞作品の功績がよく伝わる有意義な会となった。今後も世界各地の優れた日本研究の応募を期待したい。

【執筆:髙田 圭(法政大学国際日本学研究所専任所員)】

 


第11回受賞者 森本 涼氏

 


祝辞 ヨーゼフ・クライナー客員所員


挨拶 髙田 圭専任所員

左からヨーゼフ・クライナー客員所員、森本 涼氏、横山 泰子所長

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