【開催報告】2014年度第6回東アジア文化研究会(2014.10.22)報告記事を掲載しました2014/11/07

「国際日本学の方法に基づく<日本意識>の再検討−<日本意識>の過去・現在・未来」
研究アプローチ(3)「<日本意識>の現在−東アジアから」
2014年度 第6回東アジア文化研究会

     
中国若者の日本人観に見る
「知の拡散」
日 時: 2014年10月22日(水)18時30分〜20時30分場 所: 法政大学市ヶ谷キャンパスボアソナードタワー25階B会議室報 告: 毛 丹青(神戸国際大学 教授)

司 会: 王 敏 (法政大学国際日本学研究所専任所員、教授)

 

いま、中国では一冊の雑誌がよく売れています。その名前は、2012年中国の各都市で約7万人の反日デモ発生時、書店に並ぶ瞬間にデモ隊が突入し、すぐにも焼き捨てそうなネーミング……『知日』です。 7万人の反日デモも事実でしょうが、それと同時に10万人の『知日』読者もいるということはほかではなく、もうひとつの事実そのものだと思います。

100%の日本を表現する新規の雑誌を作ろうではないかという話が出たのは、2008年冬です。北京オリンピック後に各出版社がこぞって、世界のどこかの国の文化を深く知るというような試みのあるコンテンツを出したいと言いました。日本を知る『知日』だけではありません。アメリカを知るのは『知米』、ヨーロッパを知るのは『知欧』といい、韓国を知るなどのシリーズ本のアンテナショップとして、まず日本バージョンを立てたのです。

なぜ日本を真っ先にやらなければならないかというと、日本にかかわると売れるからです。それだけのことです。ビジネスモデルとして成り立つことができるのです。中国の大手書店の外国文学のコーナーに行ってご覧になってください。大体7割、ひいては8割以上が日本の小説でずらりと並んでいます。それだけではありません。ファッション誌、アニメ、漫画本もすべて含めてそのような情勢の中で、若い編集長は私に向かって自信に満ち溢れていて笑いながら「これでいけますよ」というような話をしてきたわけです。

『知日』の雑誌作りの原則は、中国の読者のために日本の生の、そして直の実体験を提供することにあります。今の日本の文化、芸術、クリエイティブテクノロジーや旅などを表現し記録することに努めながら、2013年に月刊誌にリニューアルしました。

『知日』は一人ではありません。一つの若いチームですから、私だけは主筆として最年長者ですが、みなさんがそれぞれ自分なりの視野で相手を観察しています。中国文化の背景を参照する者、中国と日本以外の国の文化と比較する者、記事の端々からみなさんの興味の在り方が読み取れます。日本語の「等身大」という言葉の意味は「あなたと同じ視線」だと言います。『知日』という雑誌はあなたと同じ視線であなたを見る、誇張せず蔑視せず賛美せず、文化の記録と叙述として、今後の日本への理解を深めるための道をつくっています。

『知日』には大きな特徴があります。それは政治問題などから一線を隠すということです。それに日本雑誌の模擬品ではなく、日本人も気づかないどんな小さなことにも目を向けて積極的に記事とします。編集方針として日本文化の持つ「親しまれやすい」という、いわばグローバル化に向けた知の仕組みを徹底して検証することにしています。中国若者にとって日本文化に関連する情報への欲求が高くなったからこそ、日本文化を消費する大きな市場を形成しうる状況が生まれ、そして、それを狙っていた雑誌『知日』として、はじめて読者から絶対的支持を得ることができました。
しかし、現在、中国では日本文化に強い関心を持つ若者が増える一方、日本では中国の今の文化に興味を持つ若者が少ないのです。とても残念です。『知日』のように「今の中国の文化を知る」という雑誌を作ろうと思っても、おそらくそのような市場が日本には存在しません。さらには「日本のことを知りたい」という中国の若者と「中国のことに興味がない」という日本の若者の差は、後5年、10年には「日本のことを知る中国人」と「中国のことを知らない日本人」という結果をもたらし、両国の間の力の差、もっと厳密的に言えば、知の格差を生じさせる可能性でさえあります。これは戦後の日本における米国の文化への憧れと米国の日本の文化への無関心と同じです。
しかし、今の日本文化だけではなく、中国文化にも実のところこれからの世の中を考える手がかりや、世界という大きなテーマのほかに人間という存在についての鋭い洞察とそれを書き換えていく豊かな想像力が渦巻いています。中国の若者が意欲的であるのに対して、日本の若者が意欲を欠いているということは決して良くはありません。21世紀の情報環境の変化は「知る」という体験を大きく変えています。そして、人間と文化との関係性も大きく書き換えようとしています。こうした知への欲求による知の拡散はこの変化を背景にしているものです。
『知日』という小さな試みですが、確実に今の日本の文化を伝える有効なツールになりつつ、そしてなによりビジネスモデルとして、さらなる知的な吸収力とともに成長していくものだと思います。
(まお・たんせい 作家 神戸国際大学教授 『知日』主筆)

【記事執筆:毛 丹青(神戸国際大学 教授)


毛 丹青氏(報告者)


会場の様子

 

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