震災シンポジウム(2012.3.20)

法政大学サステイナビリティ研究教育機構・法政大学国際日本学研究所
共催シンポジウム『震災後のいま問いかける』 開催報告

法政大学サステイナビリティ研究教育機構・国際日本学研究所共催

国際シンポジウム
『震災後のいま問いかける』 開催報告


  • 日 時  2012年3月20日(祝、火)
  • 会 場  法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナード・タワー26階スカイホール
  • 共 催  サステイナビリティ研究教育機構   ・法政大学国際日本学研究所

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「なぜ、『雨ニモマケズ』が読まれるのか」
世界的問いかけへの回答を考える

 

東日本大震災から1年が経った3月20日(祝、火)、法政大学国際日本学研究所と法政大学サステイナビリティ研究教育機構の共催による国際シンポジウム「震災後のいま問いかける」が市ヶ谷キャンパスで開催された。

午前の部では、震災後の日本社会が直面している復興に関する提言を中心に議論が行われ、午後の部では、震災当時から続く日本国民の〈秩序ある〉対応と復興精神に対する世界からの問いかけを切り口に、「なぜ、『雨ニモマケズ』が読まれるのか」と題して、「被災地域の精神の遍歴と体験知」という視点から議論が行われた。いずれの議論も、震災後の復興を支援する試みという点で一貫するものであった。

東日本大震災発後、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」が再び注目されている。未曾有の災害を経験し人間の無力さに打ちひしがれながらも、人々は、立ち上がり、前を見つめて歩きだすための力強い「言葉」を求めている。賢治が生きた大正・昭和と現代社会では、生活様式だけでなく人々の感性も大きく異なるが、時代が変わり、自然災害の規模が違っても、人間と自然との関わり方は不変である。大震災の経験から私たちが学ぶべきは、人間が自然を克服しようとする現代文明のあり方に疑問を投げかけ、自然と人間の本来の姿を再考することではないだろうか。復興とは、同時に自然との関わり方を再考する歩みでなければならない。

その過程は東北地方や日本だけの経験にとどまらず、広く人類に共有されことが望まれる。人間はどのように自然との関わり方を考えてきたかという精神の遍歴を、日本をはじめとする各国の歴史的、文化的な取り組みを通してお互いに学ぶことにより、その体験知を人類共有の智恵へと高めていきたい。そこで、このシンポジウムは、東日本大震災後の社会の動きを継続的に観察する中で、被災者や支援者が宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を再評価しているという報道が多いことに注目し、前述の世界からの問いかけへの対応の一つとして、各国の代表者によって人類発展史、文明史に貢献できる「受難の教訓と知恵」を浮かび上がらせることが目指された。

宮沢賢治の作品は、一般的には日本文学とされることが多い。しかし、今回のシンポジウムでは作品論または文献解釈の観点による議論に留まらず、賢治が代弁する日本文化や、現代日本人に継承され、内在している生命観、価値観を、文化人類学、社会文化学、言語社会学、東アジア学というより広い分野から、総合的に検討した。具体的には宮沢賢治の作品を媒介に、人間本来の原風景に近い生活観、世界観、人生観に再検討することによって、戦後日本の経済発展の過程におけるこのような自然と人間の原風景ともいうべき関係性に含まれる変容した、あるいは不変な要素を考察した。さらに、そこから抽出した教訓を未来の価値基準にも注入できる可能性を検討した。

東日本大震災の体験を賢治が示した原風景への転換として捉えるならば、人間にとっても生き方の転換が求められ、素朴で原初的価値観の蘇生へと繋がっていくだろう。自然との融合という普遍的な価値の可能性については、日本だけでなくアジアに広く共通する「哲学」や「思想」でもある。被災地東北出身の宮沢賢治の「雨ニモマケズ」に内在する示唆的な生き方を語ることを通じて、震災からの復興における精神力が、地球規模の生態変化の中で、持続可能な発展を試みる社会への応答とも捉えられよう。これは、日本人にとっては新たな自己認識を踏まえた上での復興となるだけでなく、外国にとっても自他再認識の機会であり、日本を生き方転換のテストエリアと意識することになろう。その意味で、新たな文明創出の道筋を、海外から招いた著名なゲストたちと共に探り、その体験と知恵を共有できるシンポジウムの開催ができたと考える。

当日午後の発表者とテーマは以下の通りであった(発表順)。

・基調講演: 杉井ギサブロー(京都精華大学教授、映像作家)/『賢治童話を今どう読み解くべきか』

・報告1:張怡香(世界医学院院長・教授)/Green Medicine to Detoxify our Environment(「道医(漢方)の世界観と宮沢賢治思想の接点」)

・報告2:雷剛(重慶出版社編集部)/宫泽贤治在中国(「なぜ宮沢賢治の作品が漢字文化圏に翻訳されている?」)

・報告3:賈蕙萱(元北京大学教授)/《风雨无阻》半世纪—我的中日文化互补性考析(「『雨ニモマケズ』中日文化の相互補完に関する一考察」)

・報告4:金容煥(韓国倫理教育学会会長、忠北大学校教授)/「宮沢賢治の生命倫理の現代価値」

・報告5:岡村民夫(法政大学国際文化学部教授)/「イーハトーブと東北力」

注1 上記記載は同シンポにおける王敏の基調講演「なぜ、『雨ニモ負ケズ』が読まれるのか」により整理したものである。

注2 午前の部の発表者とテーマは以下の通りであった(発表順)。

報告1:大倉季久(桃山学院大学社会学部講師)/林業における「震災後」を問うということ―影響の範域からの着想

報告2:吉野馨子(法政大学サステイナビリティ研究教育機構准教授)/農はどこにいくのか? 生業・市場・消費者

報告3:関いずみ(東海大学海洋学部准教授)/変わりゆくものと、変わらない何か―海とくらしの姿を考える―

注3 午後の部は国際交流基金の支援を受けて行われた。御礼を申し上げます。

【報告者:王敏(法政大学国際日本学研究所専任所員・教授)】

 

 

王 敏 教授

午後の部 司会:小秋元 段 教授

賈 蕙萱 元北京大学教授

午後の部 全体討論の様子

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