国際シンポジウム報告会『ヨーロッパの博物館・美術館保管の日本仏教美術コレクションと日本観の形成』(2012.11.17)

平成22年度文部科学省「国際共同に基づく日本研究推進事業」
法政大学国際日本学研究所「欧州の博物館等保管の日本仏教美術資料の悉皆調査とそれによる日本及び日本観の研究」

国際シンポジウム報告会
『ヨーロッパの博物館・美術館保管の日本仏教美術コレクションと日本観の形成』


  • 開催期間: 2012年11月17日(土)
  • 会  場: 法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー26階A会議室
  • 司  会: ヨーゼフ クライナー(法政大学国際日本学研究所兼担所員・国際戦略機構特別教授)

 

 


島谷 弘幸 氏(東京国立博物館副館長)による発表

 

法政大学国際日本学研究所は、文部科学省の「国際共同に基づく日本研究推進事業」の採択を受け、2010年度以来、ヨーロッパの博物館・美術館に保管されている日本仏教美術資料の「悉皆調査」と「それによる日本及び日本観の研究」を、ヨーロッパの90か所以上の博物館・美術館との協力で推進してきた。そして、去る2012年6月4—6日には、ポーランド、ワルシャワ近郊のパラツ・ウォホフで、これまでの研究活動成果を検証する国際シンポジウムを実施した。本報告会は、そのシンポジウムの模様を紹介し、改めて研究の成果と意義を探る報告会として開催した。また、本年度はプロジェクトの最終年度にあたり、全体を総括する意味も込めておこなわれた。報告は13名がデータベース作成や現地調査の成果を盛り込んで、それぞれの研究分野についておこなった。ポーランドの国際シンポジウムに参加できなかった研究協力者の方々にも、積極的に参加していただき、より充実した報告会となった。

まず、福田好朗(法政大学常務理事)より開会の挨拶があった。続いて本プロジェクトの意義を「海外における日本仏教美術コレクション研究の一つの意義」と題して安孫子信(法政大学文学部教授、同国際日本学研究所所長)が、総括的な目的と研究方法について「欧州の博物館等保管の日本仏教美術資料に関する国際共同研究の目的と方法」と題して小口雅史(法政大学文学部教授)が報告した。次に、成果の大きな柱となるヨーロッパの博物館・美術館保管の美術作品のデータベースについて、田口昌弘(法政大学国際日本学研究所客員学術研究員)が「JBAEデータベースの作成と操作」と題して概要を説明した。

ヨーロッパにおける日本美術コレクションの成立の歴史を広い視野から集めたヨーゼフ・クライナーの報告「ヨーロッパにおける日本美術のコレクションの歴史と現状」、17—19世紀のヨーロッパ社会に於いて日本の仏教美術が与えた影響を考察したジョセフ・キブルツの報告「17世紀から19世紀にいたるヨーロッパにおける仏のイメージ」が続いた。

昼食をはさみ午後からはより専門的な美術史分野の報告となった。島谷弘幸(東京国立博物館副館長)は、「ヨーロッパにおける仏教書跡」と題して、ポーランドでのシンポジウムの模様やヨーロッパにおける日本美術研究の現状について述べたうえで、ヨーロッパに所在する仏教書跡作品を概観した。書跡は、本プロジェクトにおいて最も作品数の割合が少なかったが、今回のプロジェクトには含まれない各国の図書館が多く所蔵していることを述べ、画賛などにも注目すべき書跡があることを指摘した。続く丸山士郎(東京国立博物館博物館教育課教育講座室)は、「ヨーロッパにおける仏教彫刻」と題してヨーロッパにおける仏教美術作品について述べ、ヨーロッパには少なからず仏像彫刻の優品も所蔵されていることを指摘し、模造や贋作についても重要な提言をおこなった。澤田和人(国立歴史民俗博物館准教授)は、「トリノ市立東洋美術館の袈裟コレクションについて」としてイタリア・トリノ市立東洋美術館でおこなった袈裟コレクションの現地調査の報告をおこなった。高橋悠介(神奈川県立金沢文庫学芸員)も、「プラハ国立美術館本『釈迦の本地』について」と題してチェコ・プラハ国立美術館に所蔵される絵巻『釈迦の本地』の調査報告をおこなった。口井知子(法政大学国際日本学研究所客員所員、多摩美術大学非常勤講師)は、「調査報告—ヨーロッパの日本仏教絵画コレクションについて—」と題して、現在までに収集した作品のなかから、重要な仏教絵画作品を取り上げ、概要を説明した。神野祐太(法政大学国際日本学研究センター客員研究員)は、「ドイツ・ミュンヘン民族学博物館所蔵の伎楽面について」と題して州立ミュンヘン民族学博物館での現地調査の際に見いだした伎楽面について報告した。河合正朝(慶應義塾大学名誉教授、千葉市美術館館長)は、「ヨーロッパの個人コレクションとしての仏教絵画—ランゲン夫妻とグレゴリウス・マノスの蒐集を中心に—」と題してランゲン夫妻とグレゴリオ・マノスの蒐集した日本仏教作品について概観して報告するとともに、ヨーロッパにおける日本美術を展示する建築や環境についても言及した。

なお、当日ヘレナ・ホンクーポヴァ(プラハ・ナショナルギャラリー元館長)の参加が決まり、「大光山厨子のなぞ」と題してプラハ・ナショナルギャラリーと同館所蔵の日本美術コレクションの概要を報告した。この報告によって、ヨーロッパの博物館・美術館関係者の日本美術への積極的な姿勢を直接知ることができたのは貴重な成果であった。ホンクーポヴァは、ワルシャワでの国際シンポジウムでも重要な役割を果たした人物であり、国際シンポジウムの雰囲気までも本報告会で伝えることができた。

最後に、ヨーゼフ・クライナーによる報告「思わないところで日本仏教美術にであう」がおこなわれた。日本の仏教美術は、大英博物館やギメ美術館のような各国の代表的な博物館・美術館に保管されるだけでなく、リトアニア、ラトビア、アルバニアなどの日本との関係が希薄と思われるような国々にも多数存在することが紹介され、日本美術の裾野が日本人の想像以上に広がっている現状が報告された。

総括では、今後の本プロジェクトの方向性について議論がおこなわれた。その結果、ヨーロッパの博物館・美術館関係者の日本美術への関心は高いが、ヨーロッパでは専門知識を得られないという現状がわかり、本プロジェクトをどのような形であれ継続することでヨーロッパのニーズに答えていくことが重要であると再確認された。
会場には日本人をはじめ諸外国の一般参加の方々が多数出席し、本プロジェクトへの関心の高さがうかがえた。このような研究プロジェクトが継続することで、ヨーロッパだけでなく、日本の文化財行政のさらなる発展にも寄与することが期待できるといえよう。

【記事執筆:神野 祐太(法政大学国際日本学研究センター客員研究員)】

ジョセフ キブルツ 教授(フランス国立科学研究センター)による発表

丸山士郎氏(東京国立博物館博物館教育課教育講座室室長)

高橋 悠介 氏(神奈川県立金沢文庫学芸員)

神野 祐太 氏(国際日本学研究センター客員研究員)