第7回東アジア文化研究会『日本最大の経済パートナー・中国経済をどう見る』(2012.10.31)

国際日本学の方法に基づく〈日本意識〉の再検討−〈日本意識〉の過去・現在・未来」
研究アプローチ(3)「〈日本意識〉の現在−東アジアから」
2012年度 第7回東アジア文化研究会

日本最大の経済パートナー・中国経済をどう見る


日 時: 2012年10月31日(水)18時30分〜20時30分
場 所: 法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー26階A会議室
講 師: 西園寺 一晃 (工学院大学孔子学院学院長)
司 会: 王 敏 (法政大学国際日本学研究所専任所員、教授)

西園寺 一晃 学院長

西園寺 一晃 学院長

司会:王 敏 教授

 司会:王 敏 教授

会場の様子

会場の様子

現在の中国経済を考える場合のキーワードは「転型」だ。転型とは、経済構造の転換、構造改革のことで、中国経済が今後安定的、持続的発展をする場合不可欠のものとなる。
中国経済はここのところ失速気味だ。この「失速」について見方の違いはある。正に失速後退していると見るのか、それとも高度成長期は過ぎ、安定成長期に入ったと見るかだ。
確かに数字で見る限り、中国経済は下降線をたどっている。2011年第1四半期から今年の第3四半期までの成長率を見ると9.7%→9.5%→9.1%→8.9%→8.2%→7.6%→7.4%となっている。原因は二つ。(1)主要な貿易(特に輸出)相手国であるEU経済の深刻化、米日経済の低迷。(2)中国経済(成長)の構造的欠陥—外需型成長。
中国経済の成長過程を見ると、明らかに2つの段階がある。1979年の改革・開放のスタートから1990年末まで、成長をけん引したのは(1)爆発した購買力(内需)。(2)積極的な固定資産投資(特に沿海ベルト地帯に対する)。(3)成功した輸出振興。(4)外資導入の四つだ。この内最大の要素は内需で、この段階の成長は基本的に「内需型成長」だった。ところが2000年以降は状況が変わった。内需が相対的に落ち込み、輸出、外資、固定資産投資が成長をけん引した。つまり成長構造が「外需型成長」に変化した。特に輸出は大健闘し、成長けん引の最大の要素となった。その結果、貿易黒字は雪だるまのように増え、今や外貨準備高3兆2000万ドルで、第2位の日本の1兆4000万ドルを大きく上回っている。因みにGDPの中に占める内需の割合は、米国70%、日本60%、中国は40%だ。
外需型成長は当然世界経済の浮き沈みの影響を受ける。特に成長をけん引する輸出は、主たる輸出相手国・地域の経済情勢の影響をもろに受ける。中国の主な輸出相手国・地域はEU、米国、アセアン、日本だ。この内EU、米国、日本の経済が落ち込んでいる状況の中で、中国の輸出が落ち込み、それが成長にマイナス影響を与えるのは当然だ。
中国経済の構造的欠陥、アキレス腱も見えてきた。(1)格差(個人、企業、地域)は拡大し、現在都市住民の可処分所得と農村住民の純収入は約3.3対1.0、上海と貴州の1人当たりのGDP格差は十数倍になる。(2)成長は環境破壊を招き、それは限界に達している。(3)エネルギー問題(前近代的な一次エネルギー構造、エネルギー不足、エネルギー効率の悪さ)。(4)少子高齢化に伴う諸問題の顕在化。(5)社会主義市場経済の中で深刻化する権力者の腐敗問題。
胡錦濤指導部は「調和のとれた社会」の建設を打ち出した。この中心は格差問題の緩和、解決であり、成長第一主義からの脱却である。具体的には、産業構造を労働集約型からハイテクなどの高付加価値産業・サービス業への転換、輸出入構造の転換、輸出先の分散化であり、内陸部農村地帯の都市化である。グリーン革命(脱環境破壊)も進めなければならない。省エネも不可欠だ。さらにすでに少子高齢化社会に突入した中国は、今後経験したことにない様々な問題に直面するだろう。中国の優位性もある。それは豊富な外貨準備であり、豊富な労働力(農村の過剰人口は2億人とも言われる)の存在であり、まだ十分掘り起こされていない内陸部の潜在的内需だ。そして、13億人のマーケットは、「チャイナ・リスク」が問題になろうが、やはり各国にとって大きな魅力には違いない。
今年前半に発表されたHSBCのレポートによると、21世紀半ば頃の世界各国のGDPを、中国25兆ドル、米国22兆ドル、インド8兆ドル、日本6兆ドルと予測している。これは明らかに「二強時代」だ。
紆余曲折はあるだろうが、中国が比較的順調に発展を続けるには、幾つかの問題をクリアーしなければならない。一つには、産業構造転換の実現。二つ目は、新たな消費分野の創出。環境ビジネスと共に最近脚光を浴びているのは「高齢者ビジネス」である。3つ目は内陸部農村の都市化のスピードアップ。実際にはかなり進展していて、1970年代末の都市住民と農村住民の人口比は20%対80%だったが、2011年末には51%対49%と逆転している。しかし、これは危険な要素を含んでいる。それは、農村の都市化→耕地面積の縮小は、食糧問題を引き起こす可能性があるからだ。
日中両国は領土問題で冷戦状態にあるが、両国経済はすでに切っても切れない相互依存関係にある。また世界第二と第三の経済大国が相争い、経済関係が崩れれば、アジア経済と世界経済に及ぼす悪影響は計り知れない。日中は経済分野でも、アジアと世界の平和と繁栄に貢献しなければならない。

 

【記事執筆:西園寺 一晃(工学院大学孔子学院学院長】