第1回アルザスシンポジウムに向けての勉強会(2009.7.4)    

2009年度アルザスシンポジウム(人体と身体性)に向けての第1回勉強会報告


2009年11月1日-3日にフランスのアルザス・ヨーロッパ日本学研究所(CEEJA)で開催予定の シンポジウムに向けての第1回勉強会を開催しました。

日時  7月4日(土)18:00〜20:00
場所  法政大学市ケ谷キャンパス 58年館2階 国際日本学研究所セミナー室
報告者   アンヌ・ゴッソ 氏(ボルドー第3大学准教授/フランス国立科学センター・外務省共同研究所研究員)
テーマ  「身体と姿勢:東アジアの伝統の中で」
司会   安孫子 信(法政大学国際日本学研究所所長)

 

2009年7月4日(土),18時から20時過ぎまで,法政大学市ヶ谷キャンパス国際日本学研究所セミナー室において,「2009年度アルザス・シンポジウム「人体と身体性」にむけての第1回勉強会」が開かれた.今回はフランス・ボルドー第3大学准教授で日仏会館研究員として現在滞日中のアンヌ・ゴッソ先生から,「身体と姿勢:東アジアの伝統の中で」というテーマでレクチャーをしていただいた.レクチャーと質疑への応答は,日本語で行われた.

内輪の勉強会ということもあって10名ほどの参加者であったが,古代から現代に至る日本人の身体観の変遷を,「座る」という動作・姿勢に絞って,中国や西洋との比較で詳しく説明していただいた.豊富な資料の紹介と分析に基づく説明は,たいへん啓発的で,多くを教えていただいた.

すなわち,「座る」ということが大きく「床に座る」と「椅子に腰かける」とに区別されるとして,生活・文化に関わる多くを中国から学んできた日本が,ここでは中国に従わず,独自路線を取ってきたことがまず指摘された.中国では10世紀から主流であった「椅子に腰かける」が,日本で広く行われるようになるのは千年後の20世紀になってからなのである.歴史的に見た場合の,「椅子に腰かける」ことへのこの日本人の「ためらい」は,いまだ十分には説明がなされていない.

ことばの上からも「腰かける」に対して「座る」は,「存在する場所」の意味を含み,安定・安心・自由・快適の感がそこに結びついている.しかし実際には「座る」にも多々あって,先行研究はそこに,「ひざまずく」,「床に臀部をつける」,「しゃがむ」の三つを区別している.そして「ひざまずく」に属し,「尊敬と礼儀作法の姿勢」として古代に中国から導入された「正坐」は,身体を強く拘束するものでありながら,日本では作法にかなう「真の坐位」として定着していったのである.

他方で「腰かける」もことばの上では15世紀にすでに確認されるし,広義の「椅子」の存在も,中国からの影響以前の古代3世紀に確認されるのである.その後,中国からの影響で5世紀から8世紀にかけて,さらに西洋との関わりで16世紀の終わりからしばらくは,「椅子」の使用が広がることも起こるが,しかしそれは「床几」といった「交椅」や「縁台」といった屋外ベンチの使用以外は,永続的なものとはならなかった.「椅子」が室内で広く使用されていくのは,結局は,明治維新以降の,西洋からの影響の決定的な受け入れを待たねばならなかったのである.

以上,今回の勉強会では,「座る」という小さな動作が,日本人の身体観やさらには日本文化の特質を語る際に,独特の,きわめて重要な位置を占める問題であることを,ご教示いただいたのである.

【記事執筆:安孫子 信(法政大学国際日本学研究所所長、文学部教授)】

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