【開催報告】第10回ヨーゼフ・クライナー博士記念・法政大学国際日本学賞授賞式および記念講演会(2025年3月10日)2025/03/25

第10回ヨーゼフ・クライナー博士記念・法政大学国際日本学賞授賞式および記念講演会

日時:2025年3月10日(月) 17:00~18:30 (オンライン開催)

■受賞者  フィン・ホルム氏(テュービンゲン大学日本学科、准教授)
■司 会  横山 泰子(法政大学国際日本学研究所長、理工学部教授)
■挨 拶  髙田 圭(法政大学国際日本学研究所専任所員、准教授)
■祝 辞  ヨーゼフ・クライナー(法政大学国際日本学研究所客員所員)

2025年3月10日に第10回ヨーゼフ・クライナー博士記念法政大学国際日本学賞の授賞式が開催されました。本賞はヨーロッパを代表する日本研究者であり、法政大学国際日本学研究所(HIJAS)の設立以来、その発展に貢献してきたヨーゼフ・クライナー博士の功績を称え、日本国外に拠点を置く若手日本研究者の活動を奨励する目的でHIJASが2014年に創設したものです。第10回目となる今回は、厳正な審査の結果、テュービンゲン大学日本学科のフィン・ホルム(Fynn Holm)氏による The Gods of the Sea: Whales and Coastal Communities in Northeast Japan, c.1600-2019 への授賞が決定しました。

今回は、受賞者の来日が叶わず、ホルム氏はドイツから参加し、横山泰子所長の司会で行われた授賞式では、オンライン上で正賞の賞状が読み上げられました。開催の挨拶において髙田は、19世紀までの海洋エコスシテムは人間ではなく鯨類が支配していたという視点に立って、日本人と鯨の400年にわたる歴史を描いた力作であり、あえて鯨漁が長らく不在であった東北地方に注目することで海外から批判の対象となってきた日本の捕鯨文化を相対化する試みになっていると述べました。続くクライナー博士による祝辞では、ホルム氏の研究はこれまでの鯨に関する人文学的研究とは大きく異なり、捕鯨の文化ではなく、鯨と人々の関係を歴史的であると同時に人類学的に分析している点を特に評価されました。海の向こうからやってくるものを日本の人たちがどのように捉えてきたのかという民族学にとって重要な問いに挑んだ労作であるとその栄誉を讃え、また今後、折口信男など日本民俗学の仕事を取り込んでいくとより一層興味深い研究になるだろうと受賞者に向けての温かい激励の言葉が贈られました。授賞式の後には、受賞作品をもとに、東北地域の鯨の文化史について講演がなされました。西日本と対比される東北の鯨の関係、東北で鯨漁が不在であった理由、鯨を祀る伝統、ノルウェー式の捕鯨技術の輸入、その結果としての反捕鯨運動など図表や写真などを使った大変分かりやすく興味深い講義でした。

トランスナショナル・ヒストリーの古典にフェルナンド・ブローデルによる『地中海』という名著があります。ホルム氏の作品は、自然、非人間という存在を重視する近年の新物質的(neo-material)な視点を導入することでアナール学派の方法論を刷新した仕事になっている印象を受けました。海洋国家である日本を事例にこうした新たなアプローチが出されることは大変喜ばしいことだと感じた次第です。

今後も世界各地の優れた日本研究の応募を期待します。

【執筆:髙田 圭(法政大学国際日本学研究所専任所員)】


第10回受賞者 フィン・ホルム氏

司会 横山泰子所長

挨拶 髙田圭専任所員

祝辞 ヨーゼフ・クライナー客員所員

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