【開催報告】「翻訳の限界を超えるために-『紅楼梦』の日本語翻案をテキストに」共催講座(2017.6.30)2017/07/13

 

「翻訳の限界を超えるために-『紅楼梦』の日本語翻案をテキストに」共催講座の開催報告

日時: 2017年6月30日(金)20:00~21:30
場所: 日中友好会館留学生事業部後楽講堂
講演者
:呉 昊(華東師範大学外国学院博士課程在学

 

 

 

公益財団法人日中友好会館所管の学際的総合研究の一環としてのセミナー「後楽講堂」と本研究所の王敏研究室の共催により、標記の講座を開催した。

日本における『紅楼夢』の受容史百年を超え、この間の訳本は四十数種にまで及ぶ。だが、女性の視点でリライトしたテキストは、王敏の『紅楼夢太虚幻境篇』(ソレイユ)一冊のみにとどまる。王敏が西洋発のジェンダー論の要諦を活かしながら、男女の中国における封建的な考え方と男女人権にける近代的な思考との相克から逃げることなく『紅楼夢』を見つめなおした結果、現代に通じる『紅楼夢』像を提供している。
『紅楼夢太虚幻境篇』では、王煕鳳をはじめ林黛玉や尤三姉妹など女性像が現代的に変容され、目覚めた女性意識をもとに再編成した翻案小説である。女性の声を発信したいという王敏教授のスタンスは日本の『紅楼夢』受容史上でははじめてのことと思われる。日本版の同類の作品では、主人公の恋愛悲劇は「無常」という認識で片付けられ、女性は「美」的対象として描きとどめられる。王敏版では女性は美しいエロスだけではなく、健気な品格を有する。また、個人的存在を越えた社会との関連性に問いかけをしている。これによって『紅楼夢』に現代的な価値を与える試みである。

王敏の翻案小説『紅楼夢太虚幻境篇』は漫画版(北本守正・画 ソレイユ)化もされた。日本では本格的な初の漫画版である。中国国内の漫画に比べて日本のほうは個性が描き分けられてより深く表現されているので、漫画に親しむ若者世代も飽きられる心配はない。
日本文化の理解もその受容も乗り越えなければならない課題が多い。中国人にとって日本語の学習と修得が必須であるが、中国人の視野に在日歴の長い王敏ならではの日本人的な眼差しは貴重である。中国的発想の百科事典と呼ばれる『紅楼夢』を素材に、日中間の相互の自己認識と他者認識への参考になりたいところが覗かれる。『紅楼夢』の翻案小説版、漫画版のいずれも相互理解への通路につながると思われる。

 

【記事執筆:王敏(法政大学国際日本学研究所専任所員、教授)、夏瑛(公益財団法人日中友好会館留学生事業部部長)】

 

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