第9回東アジア文化研究会『東アジアの宗教と社会』(2012.12.5)

「国際日本学の方法に基づく〈日本意識〉の再検討−〈日本意識〉の過去・現在・未来」
研究アプローチ(3)「〈日本意識〉の現在−東アジアから」
2012年度 第9回東アジア文化研究会

東アジアの宗教と社会

 

日 時: 2012年12月5日(水)18時30分〜20時30分
場 所: 法政大学市ヶ谷キャンパス 58年館2階 国際日本学研究所セミナー室
講 師: 橋爪 大三郎 (東京工業大学大学院社会理工学研究科教授)
司 会: 王 敏 (法政大学国際日本学研究所専任所員、教授)

発表の様子:橋爪大三郎教授

橋爪 大三郎 教授

1.グローバル化時代と宗教
21世紀のグローバル世界は、人類社会がつぎの4つの大きなまとまりを形成していることが明らかになった時代である。その4つとはすなわち、西欧キリスト教文明圏、イララム文明圏、インド文明圏、中国文明圏。それぞれ10〜20億の人口を擁し、それぞれが固有の宗教をベースとして、特色ある人びとの集団をつくっている。こうした集団は、数千年の歴史をへて形成されたもので、人びとの思考と行動を一定のパターンにあてはめて予測可能にしている。そのパターンは文明の深い部分に根ざしており、ごく近い将来のうちに変化するとは考えられない。
グローバル世界が多元的であることは、19〜20世紀には西欧文明中心主義のせいで覆い隠されてきた。しかしその実それは、複数の異なった宗教をベースにした文明圏からなる多元的な世界である。宗教を手がかりに、それぞれの文明圏を理解すべきである。

2.宗教と社会:東アジア以外の場合
キリスト教文明は、政教分離を特徴とする。政府と別に、信徒の集まりである教会があり、教会が政府を正当化する。宗教法がなく、政府が世俗の法律を制定する。また、市場は政府や教会と無関係に自立的にはたらき、そこに神の意志が反映するという理解(政経分離)が根付いた。この、世俗法と市場の組み合わせから、資本主義がうまれた。
イスラム教文明は、政教一致にもとづく唯一性(タウヒード)を強調する。聖典コーランにもとづくイスラム法のもと、信徒は人類大の共同体(ウンマ)を形成する。イスラム法が不変で、新たな法律を制定できないこと、主権をもつ政府を構成しにくいことが、近代化の障害となっている。
ヒンドゥー教文明は、カースト(ヴァルナ)を基軸とする超安定システム。宗教的権威は政治や経済に優位する。仏教はカーストと無関係に、誰もが最高の境地に至れるとし、仏(覚者)は神より優れているとしたが、ヒンドゥー教は仏は神の化身のひとつであると し、仏教をヒンドゥー教に吸収した。

3.宗教と社会:東アジアの場合
中国社会の特徴は、政治を経済や宗教よりも最優先し、有能な行政官僚を養成し政府を構成することを第一義とする点である。中国ではそれだけ、安全保障の優先順位が高い。
伝統的な中国社会では、皇帝をトップとする政府組織、底辺の親族組織(宗族)、の二段階となっていて、政治的リーダーへの服従(忠)、親族の年長者への服従(孝)、の二つの価値がそれぞれ中核となる。こうした儒教の価値と行動様式は、キリスト教文明のそれらと相いれないところがある。
日本社会の特徴は、集権的官僚制を好まず明確な血縁集団もないなど、中国社会と異なる。そのため、中国文明を不完全なかたちで輸入し、儒教の原則を「忠孝一如」と読み替えるなど、特異な特徴を発展させた。

4.東アジアの近代化
西欧キリスト教文明と接触したあと、中国は近代化が遅れ、日本は近代化がすみやかだった。中国は、自身が完結した世界の中心であるという儒教的世界観に立っており、政治 が優位し、経済や宗教や社会制度が自立したルールで動いていなかった。日本は、儒教的世界観から自由で、経済や宗教や社会制度がそれぞれ自立したルールで動いていた。この差異が、中国と日本の歴史を分けたと思われる。毛沢東の中国共産党は、伝統中国をつく りかえ近代化を準備する大きな役割を果たした。

5.中国の改革開放は、東アジアをどう変えるか
鄧小平の改革開放は、社会主義+市場経済という独創的な実験を推進した。この結果中国は、巨大な経済力をそなえたプレーヤーとして国際社会に登場した。
21世紀の国際社会は、米中関係をひとつの基軸として動く。中国は、社会体制の違いや儒教文明の影響、国際社会での経験不足などから、アメリカに代わる覇権国として国際社会の支持を集めることはできない。中国は、国際社会への適応を進めること、日本は、国際社会と中国とのインターフェースの役割を果たすことが、課題となろう。

【記事執筆:橋爪 大三郎(東京工業大学大学院社会理工学研究科教授)】

会場の様子

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