ギリシャ国立東洋美術館所蔵の日本絵画調査から 講演会(2011.2.25)

講演会

 『ギリシャ国立東洋美術館所蔵の日本絵画調査から—特に佛教絵画の紹介を中心にして—』

日時2011年2月25日(金) 17:00〜19:00
会場  法政大学九段校舎3階 遠隔講義室
報告  河合 正朝 氏(公益財団法人 出光美術館常勤理事、慶應義塾大学名誉教授)
挨拶  増田 壽男 (法政大学総長)
司会ヨーゼフ・クライナー(法政大学国際日本学研究所兼担所員、国際戦略機構特別教授)

 

 

          報告:河合正朝 氏         司会:ヨーゼフ・クライナー 特別教授 

 

            開会挨拶:増田 壽男 総長              会場の様子

 

 

去る2月25日(金)、法政大学九段校舎3階遠隔講義室において、講演会「ギリシャ国立東洋美術館所蔵の日本絵画調査から—特に佛教絵画の紹介を中心にして—」が開催された。
今回の講演会は、文部科学省の「国際共同に基づく日本研究推進事業」に採択され、平成22-24年度にかけて行われる法政大学国際日本学研究所「欧州の博物館等保管の日本仏教美術資料の悉皆調査とそれによる日本及び日本観の研究」の一環として企画され、講師は慶應義塾大学名誉教授で公益財団法人出光美術館常勤理事の河合正朝氏が務めた。
河合氏は、2008年7月23日から7月30日まで、ギリシャのコルフ島にあるギリシャ国立コルフ東洋美術館(The Asian Art Museum of Corfu, Greece)で実施した、美術館が所蔵する日本絵画の調査について報告を行った。講演の概要は以下の通りである。

ギリシャ国立コルフ東洋美術館はギリシャの外交官で貴族のグレゴリオス・マノス(1850-1928)が収集した美術品をギリシャ政府が購入し、1928年に開館した。マノスは20歳頃からウィーンに渡って活躍し、後にはオーストリア・ハンガリー駐在大使を務めた人物で、外交官時代から日本の美術品を収集していた。外交官を引退してからはパリに居を移して収集を続け、ヨーロッパにジャポニズムの流行をもたらしたゴンクール兄弟から浮世絵を購入するなど、「貴族の趣味」という域に止まらない活動を行った。1928年に美術館が開館した当時、収蔵品の数は約9500点で、その内3分の2を日本の美術品が占め、とりわけ浮世絵や陶磁器は2000点以上であった。肉筆画の数が200点程度であったことを考えれば、マノスの興味や関心の対象が浮世絵や陶磁器に向けられていたことが分かるといえよう。
さて、今回はギリシャ国立コルフ東洋美術館が所蔵する日本の美術品のうち、仏教絵画28点を対象として調査が行われた。具体的には、各作品を詳細に調べ、作者や制作年代、品質、形状を同定し、それぞれについて来歴や特徴、あるいは落款や画賛がどのようなものであるかを検討した。その結果、28点の大部分が江戸時代に制作され、最も古いものが室町時代、最も新しい作品は明治時代に作られたということが分かった。ただし、江戸時代といっても制作の年代には幅があり、具体的に制作年代が特定できたのは、「二祖上人図」(天明7年5月)、「弁才天像」(文政6年4月)など数点のみであった。
所蔵品の中には、少なからぬ贋作が含まれていた。例えば、江戸時代後期に制作されたと思われる「十二弁天像」は、鎌倉時代の作品であることを想定して江戸時代後期に輸出用に作られた擬古作で、贋作の可能性があった。また、「如来像」には古色が付けられているが衣紋と獅子が狩野派の画法で描かれており、19世紀の贋作であった。一方、真作もあり、「天部像」には「探幽」の朱文方印が押されており、狩野探幽(1602-1674)の真作と認められる作品であった。なお、この「天部像」は、狩野探幽が目に触れた古画を縮小模写したものを一巻に集めた図巻である「探幽縮図」の一部を切って表具したもので、明治時代にはすでにこのような鑑賞画としての扱い方があったことを示す興味深い事例であった。
ところで、ギリシャ国立コルフ東洋美術館の所蔵品は、その多くが補修補彩されていた。これは、明治時代になって日本の絵画が欧米に本格的に輸出されるようになると、年月を経て古色蒼然とした作品よりも鮮やかな彩色の施されたものの方が高値で取引されたために起きた、当時としては一般的な現象であった。また、外国人が日本の美術品を収集する際、日本に直接赴く場合には贋作を購入する可能性は低くなるが、日本国外で集める場合には輸出用に制作された擬古作や贋作を真作として購入することが多くなる。マノスの場合、ウィーンとパリを拠点として活動し、ゴンクール兄弟などから浮世絵を購入したことからも分かるように、日本を訪問することはなかった。そのため、マノスは贋作を購入する可能性が高くなり、結果的に美術館の収蔵品自体が贋作を多く含むこととなった。
現在、美術館の収蔵品数は約1万8000点と開館時の倍近くになっており、日本関連の収蔵品の数も増えている。2008年の調査では狩野山楽の「牧場図屏風」が美術館に収蔵されていることが判明するという成果があった。そのため、収蔵品の調査が新たな発見を生む可能性があり、未調査の所蔵品、特に陶磁器や彫像などについての調査の実施が望まれる。

以上のような報告の後、ヨーロッパにおいて日本の美術品を収蔵することで知られている、ランゲン財団(ランゲン・コレクション、ドイツ)、リンデン民族学博物館(ベルツ・コレクション、ドイツ)、ギメ美術館(フランス)、大英博物館(イギリス)などの諸機関についても言及があった。ギリシャ国立コルフ東洋美術館から出発してヨーロッパ各地の美術品の収蔵状況へと至る視点は本研究プロジェクトにとっても有意義なもので、美術品の実際の写真を交えて行われる河合氏の説明とあいまって、今回の講演は極めて示唆に富む内容となった。

【記事執筆:鈴村裕輔(法政大学国際日本学研究所客員学術研究員)】