研究アプローチ④第1回勉強会(2010.7.24)

 日 時:2010年7月24日(土)15時00分〜17時00分  

場 所:法政大学市ケ谷キャンパス 58年館 2階 国際日本学研究所セミナー室

講演者:サムエル・カクゾロフスキー(法政大学国際日本学研究所客員学術研究員・トゥルーズ第2大学博士課程)

司会:安孫子 信 (法政大学国際日本学研究所所長、教授)

 

サムエル・カクゾロフスキー 氏   左:安孫子 信 所長(司会、フランス語通訳)

 

   説明するサムエル氏           会場の様子

<日本意識>をテーマとする研究所向こう5年間の研究の四つのアプローチの第4は,「三角測量と<日本意識>—未来へ」と題されている.「三角測量」の「三角」はここでは,日本・西欧・アジアを指す.第4アプローチの今回の勉強会では,そのうちで西欧の視点から<日本意識>を測量する作業が取り上げられた.

講師を務めたのは,昨年秋,日仏博士課程コンソーシアム交換留学生として来日し,以来,法政大学国際日本学研究所客員学術研究員として,「手塚治虫の映像作品と,それの映画書法(エクリチュール)への影響」と題された博士論文を準備する1年を過ごしたサミュエル・カクゾロフスキー氏(トゥールーズ第2大学)である.この勉強会は,離日を前にした氏の1年間の手塚研究の成果発表会も兼ねるものともなった.

氏がまず強調したのは,今日の手塚治虫への評価が,マンガの仕事に向い,テレビ・アニメーションの仕事がとかく見逃される傾向があるということであった.氏によれば,そこには,テレビ・アニメーションが「リミティド・アニメーション」であって,安価粗製の産物と見なされがちであること,加えて,アニメーションに関してはディズニーの影響力が圧倒的で,それを超えた独自性など想像しがたいことが理由としてあるという.

しかし,技術的に見て,手塚以前から日本アニメはディズニー・アニメに比べて,決して劣るものではなかったし,手塚は,その下地の上で,ディズニー・アニメのよさをあくまでも自らのものとして咀嚼していったのである.しかもテーマとされた空想的未来文明(鉄腕アトム)も,外来物への従属ではなくて,狭く国民的なものを超えた,独自に普遍的スタイルを創出したものとしてあったのである.こうした手塚の独創性がもっとも発揮されたのが,新たな媒体であるテレビの可能性に賭ける形で,テレビ・アニメとして,アニメーションを産業的実験の場に導き入れたことだったと言える.テレビで毎週続き物としてアニメを放映するといったこと自体が,テレビの制約をむしろ逆手にとって活かしていく,手塚の手法によって初めて可能となったのである.こうして,手塚は,日本的でありかつ同時に世界を席巻するまでに普遍的である,新たに日本的な,日本アニメを誕生させていったのである.

 

【記事執筆:安孫子 信(法政大学国際日本学研究所所長、教授)】