第3回アルザスシンポジウムに向けての勉強会(2009.9.30)

2009年度アルザスシンポジウム(人体と身体性)に向けての第3回勉強会報告

2009年11月1日-3日にフランスのアルザス・ヨーロッパ日本学研究所(CEEJA)で開催予定の シンポジウムに向けての第3回勉強会を開催しました。

日時   9月30日(水)18:30〜20:30

場所   法政大学市ケ谷キャンパス  市ヶ谷田町校舎5階 T501

報告者   岩月 正見 (法政大学デザイン工学部 教授)

テーマ   「3DCGに基づく 能の所作単元の分類と型付の解釈」

 

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2009年度アルザスシンポジウム(人体と身体性)に向けての第3回勉強会は、9月30日(水)、市ヶ谷田町校舎T501教室において、「所作学研究会」との合同開催でおこなわれた。講師はデザイン工学部教授(知能ロボットデザイン研究室)の岩月正見氏、テーマは「3DGに基づく能の所作単元の分類と型付の解釈」である。

所作学研究会は、能楽研究所とデザイン工学部システムデザイン学科を中心に、文学部・社会学部・国際文化学部・キャリアデザイン学部からもメンバーが集まって2008年4月以来活動を続けている文理融合の研究会で、特に、日本の伝統芸能や技芸に見られる所作にかかわる学際研究を進めてきた。その研究活動や成果が本年度のアルザスシンポジウムのテーマ「人体と身体表現」とも深く関わり、また、アルザスシンポジウムの参加者の中に所作学研究会のメンバーが3名もいたことから、岩月氏に勉強会の講師をお願いすることになった(その後岩月氏自身にもアルザスでの発表をお願いすることになった)。今回の講演テーマも、H21〜23年度の挑戦的萌芽研究に採択された「3DCG所作データベースに基づく能の型付資料未記述部分の解明」(所作学研究会をベースにした共同研究)の研究成果を踏まえてのものである。

型付は、能の作品を舞台上で具体的にどう演ずるかを記した資料で、能楽の技芸伝承の核となるものである。だが、その記述はきわめて簡略化されており、能の実技に関する知識のない者には使いこなすのが難しい。特に古い時代の型付には省略が多いため、その復元に際しては専門の能役者の経験則や勘に頼らざるをえない。能をはじめとする古典芸能の所作や身体性は、きわめて文化的な色彩の強いものと思われるが、そのような領域に、あえて理系的な知見をもって切り込んでいこうというのが、本研究プロジェクトの眼目である。言い換えれば、「幽玄・わび・さび」などという言葉に収束するのではない、客観的な指標を用いて古典芸能の特性を明らかにしていこうということでもある。能という芸能は、舞台上で演じられる連続した演技のどの部分をとりあげ、どこを「書かなくても判る」こととして切り捨てつつ伝承されてきたのか。また、そのような型付の記事を能らしい所作として再現するために役者が身につけている「暗黙知」はどのようなものなのか。こうした問題を、動作解析や3DCGデータベースの活用によって追究し、最終的には、CGの並列により能の演技が復元できるような演技合成ツールを作成することをめざすという岩月氏の話は、遠大ではあってもきわめて現実的な話であることが理解できた。

当日は、アルザスシンポジウムに向けての勉強会ということで、研究の前提となる能楽型付についての基礎知識や、3次元モーションキャプチャリング、Wii リモコンの仕組み、ロボット工学の基本となる「リンク機構」「自由度」「冗長性」などの用語についても、豊富な写真や動画等を使っての説明があり、また、関連の深い研究として、デジタルヒューマン(人間の身体機能をデジタル化し,コンピュータ上にモデル化したもの)研究プロジェクトの紹介等もあった。運悪く種々の会議と重なる日程となってしまったせいもあり、結果出席者(計28名)の大部分を所作学のメンバーとその関連の教員・院生が占め、日本学関係の出席者が少なかったのが少々残念であった。

【記事執筆:山中玲子(野上記念法政大学能楽研究所専任所員・教授)】