第4回東アジア文化研究会(2009.7.7)

学術フロンティア・サブプロジェクト2 異文化としての日本          

2009年度第4回東アジア文化研究会

   「中国は日米を追い越すか?

    –科学技術力視点から見る中国発展の可能性

   

報告者 周 程 氏 (早稲田大学孔子学院副院長、

                     留学センター客員准教授)    

§日 時:     2009年7月7日(火)1830分〜2030分  

§場 所:      法政大学市ケ谷キャンパス
          ボアソナード・タワー8階0806演習室

§司 会:     王 敏 (法政大学国際日本学研究所教授)


 09higashi4-1.jpg  09higashi4-2.jpg

 

 現在、世界経済は前例のない金融危機に見舞われているが、中国経済は2009年に8%の経済成長率を確保する見込みである。こうしたことから「21世紀は中国の世紀」という報道が多く見られるが、この見解には問題がある。

 確かに、中国は改革・開放政策によって政治中心の路線から経済建設を中心とする路線に転換し、以来年平均9.8%の高成長を遂げてきた。2008年までの30年間で実質GDPは約16.4倍、外貨準備高も1.7億ドルから2008年末には世界一の1.95兆ドルへと急増した。現在、中国はアメリカと日本に次ぐ世界第三位のGDP大国であり、輸出入合計でも世界第三位の貿易大国である。特に、製造業における輸出額を見ると、中国はアメリカと日本を超えてEUと同レベルの高い割合を占めている。ゴールドマン・サックスが発表した世界経済の将来推計によれば、中国のGDPは2015年には日本を超え、2040年にはアメリカを超えるとも言われている。

GDPの伸び率に基づく予測では中国経済の将来は楽観的に語られているが、しかし、中国の実際の現状は未だ立ち遅れていると言わざるを得ない。例えば、日中主要経済発展指標を比較すると、2005年の中国の男女平均寿命は72.95歳だが、これは日本の1971年の72.9歳と同レベルである。その他の指標を比較しても、中国の現状は日本よりも約30年程度立ち遅れていると考えるべきだろう。

 中国社会が抱える問題のうち、最大の問題は人口問題である。2030年にはピークの14億人が推計されているが、労働人口の増加は2010年を境に減少し、それ以降は急速な高齢化が予測されている。また、国内の経済格差も深刻な問題である。2007年の一人当たりGDPは平均3000ドルであったが、各省の統計では上海市の8000ドルに対し貴州省は1000ドルで約8倍の格差があり、国内格差は深刻である。さらに、世界トップ500にランクインした中国企業のリストを見ると、資源やエネルギーに関する大規模な国有企業が大半を占めているが、各省別GDP平均成長率は国有企業数の割合と反比例している。

 こうした中国国内の現状を検討すると、中国は日米を追い越す次世代の大国になれるかという問題に対しては、少なくとも建国100周年を迎える21世紀半ばまでは非常に困難であると言うべきだろう。その要因のひとつは、中国の科学技術力がまだ低いことにある。

 現在、中国経済は様ざまな困難に直面している。労働コストは上昇しており、資源、原材料、水資源の不足は深刻である。中でも、エネルギー使用の低効率は環境問題をより深刻なものとしている。現在、中国のエネルギーは石炭と石油に依存しているが、今後シフトすべき天然ガスや水力発電の分野でも産出量は大幅に不足しており、風力発電や太陽光発電などの新たな技術開発が緊急課題となっている。これまでのような低い人件費と低効率の資源使用による経済発展は危機的状況にあり、科学技術力の向上が不可欠である。

 しかし、2006年の主要国における対GDP研究開発費を比較すると、日本は3.61%と世界最高レベルであるが、中国は1.43%に過ぎない。また、中国の研究者数は近年増加しているが、2006年の人口1万人当たりの研究者数は日本が世界最多の64.2人であるのに対し、中国は9.3人である。世界主要国の論文数占有率と被引用回数占有率の推移では、近年の論文数は増えているものの、被引用回数は低いレベルにとどまっている。発明特許出願件数も少ない。中国企業の99%は特許を申請しておらず、四分の三の企業には研究開発部門がなく、三分の二は研究開発活動を行わず、60%は自主ブランドがないという状況である。

「世界の工場」と言われる中国だが、その生産活動を支える技術は主にアメリカと日本を中心とする外国からの導入に依存している。人的資源を開発して創造力に富んだ経済発展を実現するためには、「自主イノベーション」が必要である。2006年、国務院は「国家中長期科学と技術発展計画綱領」を提出し、2020年には研究開発費が対GDP2.5%以上、科学技術の経済への貢献度60%以上、海外への技術依存度30%以下、特許件数と論文被引用回数を世界第5位以内という目標を打ち出した。だが、これらは非常に困難な課題である。

 「世界の工場」、「世界の市場」と言われる中国経済だが、国内には様ざまな問題が山積している。「Made in China」の時代から、「自然科学と工学に基づく技術イノベーション」を転機とした「Innovated in China」の時代を経て、「人文と社会科学に基づく体制改革」を契機とした「Innovated by China」の時代を迎えることが、今後の中国にとって必要なステップである。1820年当時、世界経済の三分の一のGDPを占めていた中国経済がいつ回復するのか、「眠れる中国」がいつ目を覚ますかという問題に対しては、社会の安定を確保するための政治改革が必要であろう。

 【記事執筆:及川 淳子(法政大学国際日本学研究所客員研究員)】