第1回東アジア文化研究会(2009.4.22)

学術フロンティア・サブプロジェクト2 異文化としての日本
2009年度第1回東アジア文化研究会
「国際文化交流の評価研究—異文化理解の手がかりとして—」

■報告者  岡本 真佐子 氏
(桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部教授)

日 時:    2009年4月22日(水)18時30分〜20時30分

場 所:    法政大学市ケ谷キャンパス 58年館2階国際日本学研究所セミナー室

司 会:     王 敏 (法政大学国際日本学研究所教授)


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国際文化交流は、パブリック・ディプロマシーの重要性が指摘される中で、あらためてその意味や役割が問われている。しかし、その活動を評価する方法は諸外国においても、日本においても、模索の途上にある。日本の国際文化交流を担う主要な機関である独立行政法人国際交流基金は、1972年に設立され、2003年に独立行政法人に移行し、それにともなってその評価の実施が制度的に義務付けられることとなった。現在、共同の研究チームで国際文化交流の評価手法を開発する研究を実施しつつあり、2006年には韓国において、また2008年からはドイツにおいて、調査票およびインタビューによる調査を行った。

評価調査実施の経緯と調査結果からは、いわゆる事業の評価というものを超えて、対象となる社会、文化を理解する手がかりを数多く読み取ることができる。こうした事業評価の手法と分析については未だ研究途上ではあるものの、これまでの調査結果をもとに、文化交流という視点から垣間見える文化間関係を探り、異文化理解の手がかりとして評価調査研究結果を分析することができると思われる。

本報告では、まず韓国およびドイツにおける調査概要(実施時期、地域、調査方法、データ数等)を示したうえで、調査票設計のアイデア、分析デザイン、多様な調査手法の総合といった調査実施上の手続きやプロセスを紹介し、評価調査研究の基盤にある基本的な考え方について述べた。それは、1.個別事業に対する狭い意味での評価(満足したかどうか等)だけではなく、調査対象社会の人々の関心や行動の側面(国際交流基金や日本について知っている、事業等に参加している等)と態度の側面(国際交流基金や日本について好きである、評価している)との相関をとらえる等、より広い意味での評価をめざすこと、2.国際文化交流活動の結果として生じる、「意図した結果」だけでなく「意図せざる結果」をできるだけ把握、推論すること、3.調査票のバックトランスレーションを初めとして、間文化的な「等価性」に留意すること、4.異なる調査方法を単に組み合わせるだけでなく総合することにより、それぞれの調査方法の短所を補い、より調査対象社会の現実に即した調査結果の解釈や、中長期的な変化のプロセスや事業間のシナジー効果の把握等を行う、といった点である。

続いて韓国およびドイツにおける調査の具体的な結果をもとに、両国の「関心や行動の側面:involvement」と「態度の側面:attitude」との間に見られる全体的な傾向、ならびにいくつかの注目すべき結果について報告した。全体的な傾向としては、韓国ならびにドイツの人びとの国際交流基金への「かかわり合い(involvement)」が、一方ではそれが契機となって日本への「かかわり合い」の機会をもたらすことになるとともに、他方ではそれによって日本への「ポジティヴな意識(単に「好感度」が高まるということだけでなく、対象の他者性をそれなりに正当に評価しようとする志向性が育ってくるというようなことを含めて)」が生まれてくるということが確かめられた。

また個別の調査票データ分析やインタビュー調査結果等からは、たとえば韓国では年代によって、日本に対する好感を素直に表明できない傾向が見られたり、ドイツにおいては日本語学習者の対日好感度は、学習レベルが上がっても単純に高くなるわけではなく、年代による好感度の差が大きいといったことを紹介した。このような結果を解釈するに際しては、韓国とドイツにおける日本文化受容の状況、語学学習の上達に関わる(ドイツ)特有の難しさ、日韓、日独の歴史的関係等を考慮する必要があり、データの解釈と分析を通して、韓国社会、ドイツ社会を異文化として理解するための手がかりが数多く見出された。

国際文化交流の評価調査研究は、調査手法を開発するプロセスそのものが異文化理解のプロセスであるとともに、調査結果の解釈や分析を通して調査対象社会の文化を理解する手がかりが得られ、それが調査手法開発にフィードバックされていくという循環的なプロセスでもある。

          

 【記事執筆:王    敏    (法政大学国際日本学研究所教授)・         

                          及川 淳子(法政大学国際日本学研究所客員研究員)】