東アジア出版人会議(国際日本学研究所・東アジア出版人会議共催)(2009.1.16)

「東アジア読書共同体の構築は可能か?」

  • 主 催  東アジア出版人会議・法政大学国際日本学研究所
  • 日 時   2009年1月16日(金)13時00分〜18時00分 
  • 場 所    法政大学市ケ谷キャンパス ボアソナード・タワー26階A会議室

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 コンセプト共有へ講演・報告・討論

 日本や中国(香港、台湾)、韓国の人文分野の出版編集にかかわる人たちが国と地域の異文化の壁を超えて「読書共同体」コンセプト確立へ相互理解を深める貴重な機会として、各国持ち回りで開かれている東アジア出版人会議主催のシンポジウムが2009116日(金)、東京・市ヶ谷の法政大学で開催された。今回は日本の担当であり、法政大学国際日本学研究所が共催で参画した。今回のテーマは「東アジア読書共同体の構築は可能か?」。シンポ開始から6時間終始、報告者を含めて30人余の熱気が会場に満ちた。

 

 基調講演は、市村弘正・法政大学法学部教授による「読むということ~ 一介の読書人の感想」。引き続き基調報告したのは、香港、台湾、韓国、日本から一人ずつ。韓喆熙・韓国トルペゲ出版社代表「韓国の人文出版の歴史と現状から」▽林載爵・台湾聯経出版社発行人・総編集「出版から戦後台湾の思想変遷を見る」▽陳万雄・香港出版総会会長(香港聯合出版集団総裁)「東アジア読書共同体の構築の可能と困難」▽龍澤武・前平凡社編集局長「人文書の危機をふまえて」の以上4氏。このほかシンポ後半のパネル討論・一般討論には、韓国4氏、中国・日本各1氏が新たに参加した。金彦鎬・韓国ハンギル社代表▽姜マクシル・韓国四季節社代表▽韓性峰・韓国東アジア出版社代表▽林慶澤・韓国全北大学教授▽董秀玉・中国編集学会副会長・三聯書店前総経理▽馬健全・中国一石文化編集総監▽守田省吾・みすず書房編集部長の以上6氏。司会は東アジア出版人会議理事の加藤敬事氏と法政大学国際日本学研究所教授の王敏が交代で担当した。

 

 「読書共同体」という言葉を抜群の造語力でもって最初に使ったのが今回基調報告された龍澤氏であることはよく知られている。朝鮮半島における日本勢力による侵略「壬辰倭乱」「丁酉再乱」(日本史における「文禄・慶長の役」)を記録した李氏朝鮮の柳成龍の記録『懲毖録』が翻訳されてから60数年後に日本で早々に出版されたことから、17世紀の当時、歴史的に東アジアには中国文化を軸にして共有文化が存在したことは否定できない。東アジア全体に通じる普遍的価値観があったと考えられる。共通した本を読みあうことのすばらしさを再認識する出来事だと思われる。

 

 基調講演に立った市村氏は経験をよりどころに歴史と国境を超えた読書の普遍性に言及した。「読書の普遍性とは諸条件の壁を問題にしない力を持ちうるものだ」と言い切る。「読書」に潜在する果てもない知性と、社会変革のパワーと、自他認識の可能性を鋭く指摘している。

4氏による基調報告はいずれも読書力を踏まえた当然のような持論を進展させていた。韓喆熙氏は、人文書の民主化運動への貢献がみられた80年代から廃れた90年代への出版会の変化を嘆いたが、いままた保守化や経済不安が人文書を必要する状況が復活していると分析した。

林載爵氏は戦後の台湾思想界を大きく3期(1950年代以降・1980年代・1990年代以降)に分け、2期目の80年代に出版の果たした功績を紹介した。とくに人権面の基礎の認識を植えつけたのは地味な活字文化であったという。思想・思考の重要性を強調したもので、周辺・隣国と相互に共通した流れであったと思われる。東アジアという領域を突き動かすエネルギーがあったのかもしれない。「読書共同体」につらなるものであろう。

グローバルな視点と絡ませて東アジア読書共同体の可能性に迫ったのが陳万雄氏である。東アジアを結びつけたコンセプトは漢字文化圏あるいは儒教文化圏であったという。ところが西洋との出会いで、それらは歴史に変った。しかし、歴史が積み上げたものが簡単に消えるはずがなく、「東アジアに共通した読書共同体の再構築は可能」だと言い切った。

 

 こういいつつも、陳万雄氏は没個性的な共有を想定されていない。「東アジアの三カ国は文化を融合しつつ発展させて、伝統の文化をもつことができた」という。異文化の視点を抜きに「読書共同体」を考えておられないことも強調した。「歴史的にみれば、原点は中国から始まったことは今日にできないにしても、日本も韓国も、長期的に融合と変化を経て伝統文化になった」と、固有の文の形成にいたるベクトルを見逃していなかった。

 

 最後に董秀玉氏は「東アジア読書共同体の構築をめぐる認識を深化させ、活動を発展させていくには、関連の学術研究の成果が必要としている。法政大学国際日本学研究所の研究活動と連動させ、東アジア読書人会議の今後の展開を広がりつつ深めていきたい」と、期待を述べている。

読書共同体の概念は言葉が先行しているきらいがあるかもしれない。パネル討論でもいくどもこの言葉を越えた先にあるところに触れられ、発言されたが、発言者を取り巻く地域性の違いによってイメージに微妙な差異があるように思われた。しかし、その重要性を否定する意見や考えが出たわけではない。むしろ構築の必要性が再認識されたという共識が一層明らかになった。

 

 東アジアの国・地域の文化は固有の歩みを持つ。互いに普遍性に立ち、独自性を尊重しあって読書共同体の構築に共同歩調をとる大切さを感じ取ったというのが今回のシンポの成果でもあったように思われる。

 

                       【記事執筆:王敏(法政大学国際日本学研究所教授)】