第1回東アジア文化研究会「国際江戸学と江戸アジア学」(2007.10.26)

第1回東アジア文化研究

「国際江戸学と江戸アジア学の模索」

  • 報告者  田中 優子

             法政大学社会学部教授および国際日本学インスティテュート教授

       

  • 日 時  2007年10月26日(金)18時30分〜20時20分 

  • 場 所     ボアソナード・タワー25階 B会議室 
  • 司 会    王 敏 (法政大学国際日本学日本学研究所教授)


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国際江戸学と国際日本学

 「国際江戸学」は国際日本学の一部を成す。では国際日本学に求められているものは何であろう。まず「日本」の民族的・文化的多様性を、事実にもとづき充分に認識していることが必要だ。英語および複数の言語で情報と知識を獲得すること、英語と自国語を使用して説明できることも大切であろう。とりわけ重要なのは、専門とする分野について、国内のみならず他文化圏の成果を参照することと、他文化圏の研究者に理解可能な方法で説明できることである。また専門とする分野について、他分野の研究方法を参照でき、他分野の研究者に理解可能な方法で説明できることも大切だと思われる。

 「国際日本学」の目標は二つある。その第一は、翻訳事業、日本研究、日本についての言説、表現などが、世界でどのようになされているかを知ることである。これを実行することにより、国内での研究の意味が相対化され、個々の研究が、狭い領域を超えた日本研究全体の中で位置づけられることとなる。第二には、翻訳および日本研究や日本についての言説や表現を、できるだけ広く国際的に発信することである。これを実行することにより、個々の研究成果を外から眺め、他文化圏との比較あるいは関係の中で言語化し、論理化することが可能となる。これら国際日本学に求められることは、国際江戸学にも求められることである。

 国際江戸学の方法

 江戸学の「世界からの視点」構築には、二つのことが必要である。第一に、さまざまな言語による江戸学の成果を積極的に評価し、取り入れ、他文化圏の研究者たちと情報交換をすることである。第二に、江戸時代の歴史や文化を、当時の世界状況のなかで解釈しなおすことである。「世界状況のなかでの解釈」は具体的には次のようなことで可能となる。

1、15世紀〜19世紀日本の、東アジア(中国、朝鮮、琉球、ベトナム、台湾)との相互関係を把握する。

2、15世紀〜19世紀日本の、南アジア(インド、スリランカ、バングラデシュなど)、東南アジア諸国との相互関係を把握する。

3、15世紀〜19世紀の(日本を含む)アジア地域と、大航海時代以後のヨーロッパとの相互関係を把握する。

4、江戸時代の成立と崩壊の意味および江戸文化の内容を、世界の動きのインパクトとの関連で解釈し直す。

 以上のことは、今までの仕事のなかでは、次のような考察や論文で展開してきた。

 国際江戸学を準備した仕事

事例1・江戸時代成立事情についての考察

 江戸時代成立の原因は、世界経済の動き、とくにアジアと連動した変化のなかに求めることができる。それは大航海時代のヨーロッパの動きを背景としながら、アジア諸国からのハイテク商品の大量輸入、その後の国内生産の動き、それに続く日本経済のアジアからの自立の順番で起こった。国内生産力の増大は内需の活性化をもたらし、それが江戸文化の要因となった。

1、1510年のポルトガルによるゴア占領に始まる、世界経済とアジア・ハイテク国家(中国・インド)と鉱物資源の連動。

2、1492年のコロンブスのアメリカ大陸上陸に始まり、1560年代から本格化した南米銀山開発とアジア経済への参入。

3、1543年の倭寇による日本への鉄砲売り込みに始まる、ハイテク戦争への突入とその敗北。

4、日本の銀生産の減少と1600年のリーフデ号事件

5、アジアにおけるヨーロッパ勢力の棲み分け固定化を背景にした、1633年〜36年の幕藩体制の完成。

6、各地における都市の確立、商品生産能力の向上、市場経済の成立。

事例2・アジアにおける物語の共有と展開

事例3・布の技術と生活文化の共有・相互影響

事例4・世界状況から江戸時代を見る

事例5・外国人研究者の江戸文化へのまなざし

事例6・翻訳の選定

事例7・翻訳批評、現代語訳批評

 【記事執筆:田中 優子(法政大学社会学部教授および国際日本学インスティテュート授授)】