【開催報告】国際日本学研究所公開研究会一新しい「国際日本学」を目指して(2)「中世密教僧の日本国号説と社参作法―『日本得名事』を読む」(2018.7.26)2018/10/09

・日時 2018年7月26日(木)17:00~19:00

・会場 法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナード・タワー19階 D会議室

・報告者 高橋悠介(法政大学国際日本学研究所客員所員・慶應義塾大学附属研究所斯道文庫准教授)

・コメンテーター 小口雅史(法政大学国際日本学研究所所長・文学部教授)

・司会 大塚 紀弘(国際日本学研究所所員、文学部専任講師)

【報告要旨】

日本の国号は、歴史的には様々な解釈を伴いつつ、唱えられてきた。中世には、日本を、真言密教の教主「大日如来」の本国としての「大日本国」と捉える説がある。現代の観点からは付会にみえるものの、院政期から出現し、鎌倉時代には国土生成神話などとも関係しつつ、真言密教僧の間に広く共有されていた説である。

本報告では、主に『日本得名事』(称名寺蔵・神奈川県立金沢文庫管理)という神祇書を取り上げ、国号の由来を主題にした内容を分析した。表紙に称名寺(現横浜市金沢区)二世長老・釼阿(けんあ)の梵字署名がある鎌倉後期写本で、かつて仏教史学者の櫛田良洪が、真言密教における神道思想を論じる中で『日本得名』という書名で紹介した本である。

本書では、日前宮の神主国相(国造)の秘伝として、日本の国号の所以を三部大日の本国とし、三部大日とは諾冊二神(両部)と天照大神(蘇悉地)の三神であるとする。続いて、日前宮の鏡の由来と、日神の鏡が十八ヶ所の遷宮を経て伊勢に鎮座するまでの経緯を述べ、伊勢鎮座の理由の一つに、伊勢の蓋見浦(二見浦)の海底に大日本国と銘のある独古(独鈷)形の金札=大日の印文があることを挙げている。

本報告では、こうした説の分析を通して、神器の鏡などをめぐる中世神話における、大日如来と日本国土を結びつける観念について考察した。また、とりわけ『日本得名事』が、『諸社口決』という僧侶が神社を参詣する作法と観念について書かれた本と深い関係にあり、そもそも僧侶の神社参拝作法において日本国土観が大きなテーマになっていたことを指摘した。

コメンテーターの小口氏からは、日本の国号説の成立・展開や、日本観という観点から、この大日本国説の位置づけについて問題提起があり、また会場からはこうした密教系の神祇説の形成過程等に関する質問も出て、議論が行われた。

【記事執筆:高橋悠介(法政大学国際日本学研究所客員所員・慶應義塾大学附属研究所斯道文庫准教授)

 

(報告者:高橋悠介氏)

 

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