研究アプローチ②国際シンポジウム(2010.12.11-12)

法政大学国際日本学研究所 平成22年度文部科学省戦略的研究基盤形成支援事業
「国際日本学の方法に基づく〈日本意識〉の再検討−〈日本意識)の現在・過去・未来」
アプローチ2  「近代の〈日本意識〉の成立−日本民俗学・民族学の問題」
国際シンポジウム『日本民俗学・民族学の貢献−昭和前半』

 


  • 日時: 2010年12月11日(土)・12日(日) 10:00〜17:30
  • 会場: 法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見坂校舎 遠隔講義室
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ヨーゼフ・クライナー 研究アプローチリーダー

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挨拶する安孫子所長

近代日本の意識の成立にもっとも貢献してきた専門分野は、日本民俗学と民族学ないし文化人類学の二つであることは確かである。また、20世紀を通じて日本意識を常に自らの研究の最終目的・対象としてきたこともこの二つの人文科学である。今年度の研究アプローチ2は、6月及び9月に研究会を開いたうえで、12月に今年度の研究の締めくくりとして国際シンポジウムを開催した。学内・国内はじめアメリカのスタンフォード及びプリンストン大学、ドイツのボン大学、韓国のソウル国立大学など海外の研究機関からも報告者が参集した。

この研究アプローチ2は、今年度で昭和の戦前時代から昭和30年代終わりごろまで約40年の期間を取り上げる計画をした。それは、この両専門分野における大きな転換期であっただけではなく、日本意識自体はその数十年間の間に非常に大きく変化してきたからである。昭和初期の多民族国家の大日本帝国とその植民地から戦争時期における大東亜共栄圏の思想、あるいは日本軍が占領した幅広い東南アジア及び太平洋地域の諸民族との接触支配にうってかわり、終戦当時に連合国軍に占領された、少なくとも自己認識で単一民族国家となった現代日本の政治的変遷にともなって、いうまでもなく「日本とは何か」、「日本人とは何か」という意識も大きく揺らいで変わってきた。しかし、これはあまりにもテーマが大きく、すでに研究会の段階では時期を二つにわけて、今年度は昭和前半を研究対象とし、来年度は昭和20年から40年までの日本民俗学と民族学の発展に目を向けることにした。

この度の国際シンポジウムでは、日本意識という大きな他の発表にまたがる立場から取り上げたのは、スタンフォード大学のベフ先生、締めくくりとして戦争民族学の国際的比較を行ったボン大学のオイルシュレーガー先生の発表があった。そのほかの発表は、テーマごとのグループで行われた。

両みんぞく学の研究対象たる民族あるいは土俗から民俗への変遷などは、ソウルの全先生、神奈川大学の福田先生、戦後の問題にふれながら川田順造先生が取り上げた。台湾の学会を分析し報告したのは、笠原政治先生、植野弘子先生、野林厚志先生であった。台北帝大で設立された土俗人種学講座は、いわゆる蛮族(原住民族)の研究を取り上げた。その場合は、戦後、沖縄研究で名をはせた若い馬淵東一の役割は大きかった。それと全く違った見方は、昭和16年から雑誌『民俗台湾』を発行したグループで、それを台湾の中国人社会の民俗学的研究を目指して柳田国男の指導を求めた。柳田はどこまで大東亜民俗学を考えていたのか聊か不透明である(川村湊先生の報告)。昭和9年から10年にかけて内地日本で重要な動きがあった。澁澤敬三中心の日本民族学会設立には、岡正雄も活躍の場を得て、民族学博物館設立運動が開始された(近藤雅樹先生の報告)。それとほぼ同時に柳田還暦記念日本民俗学講習会の席で日本民間伝承の会が設立され、植民地を含んだ全国ネットワークができあがった。そのネットワークのなかの個人の社会的な状況を非常にわかりやすく紹介したのは鶴見太郎先生であった。一般的には一国民俗学という方向に走ったと考えられている民間伝承の会は、案外国際的な面があったことが石井正己先生の報告で示された。柳宗悦の民芸運動もやはり朝鮮の李王朝の美的観念から出発し展開された(松井健先生の報告)。朝鮮における両みんぞく学の動きについて、伊藤亜人先生、崔吉城先生の報告があり、北支(中国北部)の農村調査とそこで論じられた理論的枠組が日本研究にどのように影響したのか、清水先生のご報告があった。来年度の研究テーマへの橋渡しの役割として、英語圏の日本研究について発表を広げたのは、ボロボイ先生がベネディクトの『菊と刀』の新しい解釈を、また、桑山敬己先生の日本のイエ概念が外国の日本研究にどう影響を及ぼしたのかという新しい研究が紹介された。それぞれのテーマの報告が多かったため、報告者には短時間の報告時間を厳守して頂き、十分な討論の時間が確保できた。二日間にわたって80人の参加者があった。

【記事執筆:ヨーゼフ・クライナー(法政大学国際日本学研究所兼担所員、 国際戦略機構特別教授)】